最近人気のiDeCo(個人型確定拠出年金)。
2017年1月から公的年金加入者であれば基本的に誰でも加入する事が出来るようになった為に、加入者の数が一気に増えて来ています。2018年には加入者数が100万人を突破しました!
どこにそんな魅力があるのかというと、やはりiDeCoの最大のメリットは税制優遇に有ります。法人であれば節税の方法は色々あるでしょうが、個人(特に給与所得者)となると節税するのはなかなか難しいですよね。そんな個人の為の節税に使えるのがiDeCoなのです!
iDeCoによる税制優遇の恩恵は以下の3つのタイミングで受ける事が出来ます。
3つの優遇タイミング | 税制優遇内容の説明 |
---|---|
①掛金拠出時 | 拠出した掛金は全額所得控除の対象。「拠出金額×税率(税率は個人ごとで異なる)」分だけ税金が安くなります。 |
②運用期間中 | 本来、株や投資信託の譲渡益には20.315%の税率がかかります(申告分離課税の場合)。しかし、iDeCo口座で発生した譲渡益には一切課税されません! |
③給付金受取時 | 受け取った給付金は「公的年金等所得」もしくは「退職所得」に分類されます。どちらも給与所得等と比べて控除額が大きく、うまく行けば無税で給付金を受け取る事も可能! |
要は、全ての過程で恩恵が受けられる、という事ですね。
ちなみに年収400万円の方を例にとると、iDeCoを活用する場合としない場合とで実に約124万円も手取り額に差が出る事になります(30年加入した場合で拠出時の節税額。詳細はシミュレーションのセクションを御覧ください)。
そこで、ここでは個人の節税対策としては最強と名高いiDeCoの税制優遇がどのようなものなのか計算付で見ていきましょう。読み終わった後には、きっとiDeCoに加入したくなっているはず!笑
掛金拠出時は「全額所得控除」で税金が安くなる!
iDeCoに加入すると、加入者は毎月自分の決めた掛金額(※)を支払う事になります。
※:5,000円以上1,000円単位。毎月の掛金上限は企業年金のない会社員の場合「23,000円」。自営業なら「68,000円」。その他のケースについては「個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入資格・年齢~実は未成年でも加入可能。」を参照して下さい。
そして、この毎月の掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として全額所得控除の対象となっているのです。
ただ、全額所得控除です!と言われても、それがどれくらい自分の税金に影響が有るのか分からないですよね・・・。そこで、以下で実際にどれくらい税金が安くなるのか計算例を見ていきましょう。
掛金拠出時の節税額【計算例】
ここでは、年収400万円の方と年収600万円の方がそれぞれiDeCoに加入して、毎月10,000円若しくは23,000円の掛金を拠出した場合の節税額について見ていきます。
なお、分かりやすくする為に家族構成や所得控除の内容は単純化し、復興特別所得税や住民税均等割についても無視しますね。
年収400万円の方の節税事例
まずは、年収400万円の方の場合。
項目 | iDeCo未加入 | iDeCo加入(掛金月額1万) | iDeCo加入(掛金月額2.3万) |
---|---|---|---|
給与収入額(①) | 4,000,000 | 〃 | 〃 |
給与所得控除(②) | 1,340,000 | 〃 | 〃 |
給与所得(③=①—②) | 2,660,000 | 〃 | 〃 |
所得控除(④) ※1 | 1,360,000 | 1,480,000 | 1,636,000 |
課税所得金額(③—④) | 1,300,000 | 1,180,000 | 1,024,000 |
所得税(⑤) | 65,000 | 59,000 | 51,200 |
住民税(⑥)※2 | 140,000 | 128,000 | 112,400 |
税額合計(⑦=⑤+⑥) | 205,000 | 187,000 | 163,600 |
※2:住民税は課税所得金額×10%ですが、所得控除の金額が住民税と異なります。「基礎控除⇒330,000円」「配偶者控除⇒330,000円」(地方税法第34条・第314条の2)。年収600万円の計算事例でも同様
表上はごちゃごちゃと書いていますが、見てほしい部分は赤太文字にしている「税額合計」という部分です!
年収400万円の方が毎月2.3万円の掛金を支払うと年間41,400円(=205,000—163,600円)の節税となりました。
同条件で30年間払い続けると、1,242,000円(=41,400円×30年)の節税が可能です。
毎月1万円の掛金でも、1年で18,000円の節税になり、30年で計算すれば54万円の節税です。
年収600万円の方と比べると所得税率や掛金拠出額が異なるので節税額が減るのは仕方無いですが、それでも十分な節税額ですよね!
年収600万円の方の節税事例
次に、年収600万円の方の場合。
項目 | iDeCo未加入の場合 | iDeCoに加入した場合(毎月の掛金10,000円) | iDeCoに加入した場合(毎月の掛金23,000円) |
---|---|---|---|
給与収入額(①) | 6,000,000 | 〃 | 〃 |
給与所得控除(②) | 1,740,000 | 〃 | 〃 |
給与所得(③=①—②) | 4,260,000 | 〃 | 〃 |
所得控除(④) ※1 | 1,660,000 | 1,780,000 | 1,936,000 |
課税所得金額(③—④) | 2,600,000 | 2,480,000 | 2,324,000 |
所得税(⑤) | 162,500 | 150,500 | 134,900 |
住民税(⑥) | 270,000 | 258,000 | 242,400 |
税額合計(⑦=⑤+⑥) | 432,500 | 408,500 | 377,300 |
こちらも見てほしいのは赤太文字にしている「税額合計」の部分だけです。
iDeCo未加入の場合の税金が432,500円でiDeCo加入後の税金が377,300円(月額2.3万円の掛金の場合)なので、その差は55,200円です。iDeCoに加入して掛金を支払うだけで、年間5万円以上の税金が安くなるなんて嬉しいですね。
しかも、仮に30歳から60歳までの30年間同条件で加入し続けたとすれば(給与や家族構成などがずっと同条件という事は実際には無いでしょうが・・・)、節税額は1,656,000円(55,200円×30年)となります。軽自動車やコンパクトカーが買えるくらいの節税額になる事が分かりますね。
iDeCo拠出時の所得毎の節税額まとめ
上で、企業年金のない会社に勤める方を前提に2パターンの節税額についてみてみました。
最後に、より簡単に節税額が分かる様に以下の3パターンについて、上限の掛金を支払った場合の所得毎の節税額を一覧にしておきますね。
- 公務員や勤務先に他の企業年金制度が有るケース(月額上限12,000円)
- 勤務先に企業年金制度の無いケースや専業主婦(夫)のケース(月額上限23,000円)
- 自営業者等のケース(月額上限68,000円)
課税所得 | 税率(所得税+住民税) | 節税額(月12,000円の場合) | 節税額(月23,000円の場合) | 節税額(月68,000円の場合) |
---|---|---|---|---|
195万円以下 | 15% | 21,600円 | 41,400円 | 122,400円 |
195万円超330万円以下 | 20% | 28,800円 | 55,200円 | 163,200円 |
330万円超695万円以下 | 30% | 43,200円 | 82,800円 | 244,800円 |
695万円超900万円以下 | 33% | 47,520円 | 91,080円 | 269,280円 |
900万円超1,800万円以下 | 43% | 61,920円 | 118,680円 | 350,880円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 50% | 72,000円 | 138,000円 | 408,000円 |
4,000万円超 | 55% | 79,200円 | 151,800円 | 448,800円 |
毎月の掛金が多い人ほど、また、所得が大きい人ほど節税額は大きい事が分かりますね。
ちなみに、専業主婦でiDeCoに加入している方は、パート収入が103万円以下であれば所得税がかからないので、掛金を払っても所得税は安くなりません。但し、住民税は給与収入が100万円を超えると所得割が発生するので(※)、その場合は住民税の節税が可能です。
※:自治体によって扱いが異なる事が有ります。
運用益が非課税
通常、投資信託等の金融商品を運用して、売却益(キャピタルゲイン)や配当収入(インカムゲイン)が発生した場合、運用益に対して20%の税金(所得税15%+住民税5%)が課されます。
しかし、確定拠出年金の掛金を投資信託等で運用する場合、そこで発生した運用益は非課税です。しかも、発生した利益はそのまま運用を続けるので、大きな複利効果も得る事が出来ます。
例えば、60歳までの30年間iDeCoで積立(毎月の掛金は23,000円)をした場合、支払い掛金総額は828万円です。
年2.5%の運用利回りだった場合、一般の金融商品で運用(20%課税)すると約1,133万円、iDeCoで運用(運用益は非課税)すると約1,231万円となるので、差額の約98万円分お得という事になりますね。
なお、家族の扶養に入っている方が、iDeCo口座内の利益を確定した場合、「扶養から外れてしまうのでは?」と不安に思っている方がいるかもしれないですが、その心配は有りません。
上述した様に、iDeCoによる運用益は非課税なので、利益が出ても扶養親族となれるかどうかの判断と関係ありません。
iDeCoで給付を受取る際も税金が優遇される!
最後に、iDeCo加入者が給付金を貰う時の税制優遇について見ていきましょう。iDeCo加入者は、以下の4つの給付金を貰う事が出来ます。
- 老齢給付金
- 障害給付金
- 死亡一時金
- 脱退一時金
それぞれの給付内容によって、税金の取扱が異なるので以下で見ていきましょう。
老齢給付金
老齢給付金は、オーソドックスな給付金の貰い方です。iDeCo加入者は、60歳を超えると(※)老齢給付金として年金(5年〜20年の有期年金)または一時金を貰う事が出来ます。
※:加入時期によって老齢給付金の受取りが出来る年齢は変わります(関連記事:確定拠出年金が引き出し可能になる年齢は何歳から?【老齢給付金】)。
年金形式で貰う場合は「公的年金等の雑所得」
年金形式で受け取る場合は、公的年金等の雑所得として優遇を受ける事が可能です。(参考:No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁)
なお、公的年金等の雑所得は受け取る年齢が65歳未満か65歳以上かによって、計算式で使用する数値が以下の様に異なります。
まずは、受取り時の年齢が65歳未満の場合(所得計算は(a×b—c))。
公的年金等の収入金額合計(a) | 割合(b) | 控除額(c) |
---|---|---|
1円〜1,299,999円まで | 100% | 70万円 |
1,300,000円〜4,099,999円まで | 75% | 37.5万円 |
4,100,000円〜7,699,999円まで | 85% | 78.5万円 |
7,700,000円以上 | 95% | 155.5万円 |
公的年金等の収入金額合計(a) | 割合(b) | 控除額(c) |
---|---|---|
1円〜3,299,999円まで | 100% | 120万円 |
3,300,000円〜4,099,999円まで | 75% | 37.5万円 |
4,100,000円〜7,699,999円まで | 85% | 78.5万円 |
7,700,000円以上 | 95% | 155.5万円 |
例えば、64歳の方が年間170万円の年金を受け取った場合、公的年金等にかかる雑所得の金額は「900,000円(=1,700,000円×75%—375,000円)」ですね。この金額を基に税金額が計算されます。この例だと、ざくっと8万円程度(所得税+住民税)です。
なお、65歳未満の方の場合は、控除額が最低70万円で65歳以上の方は最低120万円なので、それぞれの金額以下の場合は税金が掛からない事になります。
注:同じ年に他の公的年金等を貰っている場合は、それも合算した上で上記の計算を行います。
一時金として貰う場合は「退職所得」
一方で、老齢給付金を一時金として受け取る場合は、退職所得として課税される事になります(参照元:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁)。
退職所得は他の所得と比べると非常に優遇されており、計算式は以下の様になっています。
※:退職所得控除額の計算
退職所得控除の金額は、iDeCo加入期間(勤続年数)に応じて以下の様に計算します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数ー20年) |
例えば、iDeCoに30年間加入し続けた場合の退職所得控除の金額は1,500万円{=800万円+70万円×(30年—20年)}です。
運用による増加分を無視すると、30年間で1,500万円を超える積立をするには毎月約42,000円の掛金を払い続ける必要が有ります。会社勤めの方は上限が23,000円なのでこの金額を超えるのは無理ですね・・・。つまり、税金はゼロという事です(*)。
なお、自営業等で国民年金1号被保険者の場合、毎月の掛金上限は68,000円なので、上限まで払うと年間816,000円になります。退職所得控除は1年につき40万円(20年超は70万円)なので、上限まで払うと退職所得が発生する事になりますね。
但し、その場合も退職所得控除額超過額をさらに1/2にしてくれるので、税金はあまりかからないと思っておいていいでしょう。
(関連記事:確定拠出年金は受け取り方次第で大損する!?税金の額を年金・一時金別に解説【記事未了】)
参考:中には年金と一時金を併用して受け取る事の出来るケースも有りますが、その場合はそれぞれの税制上の扱いを受ける事になります。
障害給付金
障害給付金は、iDeCoの加入者が重度の後遺障害を負った場合に受け取る事の出来る給付金です。
障害給付金は老齢給付金同様、年金や一時金として貰う事が出来ますが、いずれの貰い方をしても非課税なので税金はかかりません。
死亡一時金
死亡一時金は、iDecoの加入者が亡くなった場合に遺族が貰う事の出来る給付金です。
死亡一時金は、受け取った遺族に対して”みなし相続財産(※)”として相続税が課税される事になります。
※:現金や預貯金、株式、不動産等と異なり、相続があって初めて発生する財産で、相続税を計算する上では相続財産とみなされるもの。主なものとしては、死亡退職金や死亡保険金(被相続人が保険料を負担していた生命保険契約)など。(参照元:No.4105 相続税がかかる財産|国税庁)
但し、遺族の受け取った額に対してそのまま相続税が課税される訳ではなく、「法定相続人の数×500万円」までは非課税です。
従って、例えばiDeCoに加入している父がなくなった場合で、相続人が母・長男・長女の3人だとすると、1,500万円(=3人×500万円)までは死亡一時金を受け取っても相続税がかからない事になります。
注:他に同種のみなし相続財産が有る場合は、それも合算した合計額から非課税分を控除します。
脱退一時金
iDeCoは、老後の資金を積立てるものですし様々な税制優遇もあるので、一度加入すると原則として60歳になるまでは掛金を引き出す事が出来ません。つまり「途中解約(脱退)が出来ない」という事です。
但し、例外的に「国民年金保険料が免除されている」「年金資産額が25万円以下」などの条件を満たした場合に限り、脱退が認められています(参考記事:【無念】確定拠出年金は原則"解約"できない。解約条件と続けざるを得ない場合の対処法)。
条件を満たして脱退をした場合、脱退一時金を受け取る事になりますが、この脱退一時金については一時所得として所得税・住民税の課税対象となります。
一時所得の計算方法は以下の通り(参考:No.1490 一時所得|国税庁)。
補足:他の所得と合算する際にさらに上の計算結果を1/2にします。
なお、「総収入金額=脱退一時金」「収入を得るために支出した金額=支払った掛金」だから、税金は殆どかからないのでは?と思うかもしれませんが、この考え方は間違っています。
総収入金額については脱退一時金の額で合っていますが、確定拠出年金によって支払った掛金は小規模企業共済等掛金控除として既に恩恵を受けているので、「収入を得るために支出した金額」としては扱われません。
つまり、一時所得を計算する際に支払った掛金相当額は差し引く事が出来ないのです(所得税法施行令183条2項2号但書ホ)。
とはいっても、脱退一時金の額が50万円を超える事はないので特別控除額の範囲内に収まります。従って、脱退一時金に関して所得税や住民税がかかる事は実質的には有りません。
注:脱退一時金を受け取った年に、他にも一時所得が有る場合は合算して計算する事になるので、税金が発生する可能性は有ります。
まとめ
iDeCo(イデコ)が、いかに税制上優遇されているか分かっていただけたでしょうか。給与所得者が税金対策をするのはなかなか難しいですが、これなら老後にちゃんと返って来ますし(いくら返って来るかは運用成果次第ですが)、安心して始める事が出来ますよね。
最後に、iDeCoに関連する税制優遇について一覧形式でまとめておきますね。
項目 | 税制上の取扱い | |
---|---|---|
掛金の拠出 | 全額所得控除 | |
運用期間中 | 運用益は非課税 | |
給付金受取時 | 老齢給付金 | 年金:雑所得(公的年金等) 一時金:退職所得 |
障害給付金 | 年金・一時金共に非課税 | |
死亡一時金 | 相続税の課税対象(非課税枠有り) | |
脱退一時金 | 一時所得 |
毎月5,000円から掛金を拠出する事が出来るので、興味の有る方は一度検討してみて下さい!