やっと転職先が決まった!と思ったら、「社会保険の加入は試用期間が終了してからです」と言われてビックリ・・・
加入の交渉をしたくても、「会社と揉めるかもしれない…」と悩んでしまう人もいるのではないでしょうか。新しい会社では気持ちよく働きたいですよね。
そこで今回の記事では、
- 試用期間の具体的な定義の確認
- どんな人が社会保険に加入できるのか
- 「試用期間中は社会保険対象外です」と言われた場合、どうすれば良いか?
について分かりやすく解説していきます。
なお、最初に言っておきますが「試用期間中だからと言って、加入条件を満たしているのに社会保険に加入させないのは違法」です。社会保険に加入する条件は「労働時間と労働日数」が基本だからです。
そのほか、社会保険に入らない場合のデメリットにも触れているので、是非最後まで目を通してくださいね。
試用期間とは?~継続的な雇用が前提の試みの期間~
そもそも”試用期間”とはなんでしょうか?
この点、試用期間の定義は法律で定められているわけではありませんが、一般的には、
「継続的な雇用を前提として、本採用前に労働者の適正を確認する期間」
と考えられています。試用期間中に、労働者の勤務態度や仕事のスキルを確認して本採用するかどうか判断するわけですね。
ポイントは「試用期間とは継続的な雇用が前提の制度である」という点です。大半の人は試用期間後も働き続けますよね。
そして、継続的な雇用が前提である以上、社会保険の加入条件を満たす限り試用期間中でも社会保険に加入する権利があります。これを覚えていてくださいね。
なお、定義だけでなく試用期間の”長さ”に関しても法的な決まりはありません。JILPTが2014年に公表した「従業員の採用と退職に関する実態調査(*)」によると、3ヶ月~6ヶ月と定めている会社が約8割を超えており、半年以内の試用期間が一般的なようです。
逆に試用期間が長すぎると民法第90条の「公序良俗違反」を問われる可能性があり、過去の判例等から長くても1年程度が限度とされています。(参考判例:ブラザー工業事件 | 全国労働基準関係団体連合会)
【参考】試用期間中なら解雇は自由か?
まれに「試用期間中なら解雇は自由だ!」と勘違いしている経営者の方がいらっしゃいますが、
現行法上では、「解雇」は労働契約法(第16条)に従います。
労働契約法第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
従って、試用期間中の解雇でも客観的に合理的な理由が無ければ解雇することは出来ませんし、解雇するにしても30日前に労働基準法第20条の解雇予告を行うか、30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
労働基準法第21条の「試用期間中の者を14日以内に解雇する場合には解雇予告は不要」の規定を誤って解釈して「解雇は自由」と考えている人が多いですが、「解雇予告の必要性」と「解雇自体の有効性」は別問題です。
試用期間中でも社会保険加入が原則!原則的な加入条件をチェック
では、社会保険の加入条件を確認しましょう。
「勤め先が厚生年金の適用事業所であること」「あなたが70歳未満であること」を前提として、以下のような場合には原則として社会保険の被保険者となります。
- ①常時雇用されているフルタイム勤務者の場合(正社員・契約社員・派遣社員などの雇用形態は問いません)
- ②パートやアルバイト等でも一週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が①の社員の4分の3以上ある場合
これが原則です。
ただし、上記原則に該当しても以下の例外条件に該当している場合は社会保険に加入できません。
- 臨時に使用される者で、日々雇入れられる者
- 臨時に使用される者で、2月以内の期間を定めて使用される者
- 所在地が一定しない事業所に使用される者
- 4月以内の期間を定めて季節的業務に使用される者
- 6月以内の期間を定めて臨時的事業の事業所に使用される者
- 一定の短時間労働者
(参考:厚生年金保険法 第12条)
試用期間との関係で気をつけて欲しいのが「2月以内の期間を定めて・4月以内の期間を定めて」の「期間を定めて」の部分です。
これは「雇用契約の契約期間」のことであって「試用期間」のことではありません。あくまでも試用期間は継続的な雇用が前提ですからね。
たとえば「1年の有期契約で内1ヶ月が試用期間」といった場合には、通常通り社会保険の対象です。逆に言うと「雇用期間2ヶ月で内1ヶ月が試用期間」の場合には対象外となります。
短時間労働者の例外(一定の条件を満たせば加入可能)
さきほど例外条件で「一定の短時間労働者」は社会保険に加入できないと書きました。
一定の短時間労働者とは「一週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が一般社員の4分の3未満である人」のことを指します。
しかし、平成28年の「パートやアルバイト等の短時間労働者に対する社会保険の適用拡大」により、以下5つの条件すべてを満たす場合は短時間労働者でも社会保険の被保険者になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
- 以下いずれかを満たしていること
1.常時501人以上の被保険者を雇っている企業に勤めていること
2.被保険者が500人以下の企業に勤めている場合、短時間労働者の社会保険加入について労使が同意していること
3.国や地方公共団体の構成員(規模関係なし)
より詳細には「短時間労働者が社会保険に加入する条件」という記事をご確認下さいね!
社会保険加入原則のまとめ
少し長くなってしまったので、社会保険の加入条件を端的にまとめておきます。
- ①フルタイム勤務者(非正規雇用含)
- ②一週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が①の社員の4分の3以上ある者
- ③上記②の4分の3条件は満たさないが短時間労働者の例外に該当する者
原則としてこの3つにいずれかに該当すれば社会保険に加入できますよ。試用期間があるか否かは関係ありません。
なぜ試用期間中に社会保険に加入させてくれない企業があるのか?
試用期間中であっても、条件を満たした人は社会保険に加入する権利がありますし、企業には加入させる義務があります。
それなのになぜ、法に従わない企業が出てくるのでしょうか?
理由としては「試用期間中に辞められると手続きが面倒だから(⇒特に退職者が多い業種でよく見られる)」「経費を削減したいから(社会保険料は労使折半のため)」などが挙げられることが多いですが、とんでもないですね。
会社の勝手な都合だけで労働者の権利を奪うことは許されません。
では、社会保険に加入させてくれない場合どうすれば良いのでしょうか。
次はその対処法について解説しますよ。
社会保険はなし!と言われた場合の対処法
まずは、会社の担当者に社会保険に加入できない理由は何なのか尋ねてみましょう。
もちろん「試用期間だから社会保険に加入できない」は理由になりませんよ。
企業の担当者が単純に「試用期間中は社会保険に加入させなくても良いと勘違いしていた」なんてこともあり得ない話ではないですから、まずは一度相談してみましょう。
しかし、もし担当者がなかなか応じてくれない場合はどうしたら良いでしょうか?
この場合、身も蓋もない話ですが辞めてしまった方が身のためです。社会保険の加入原則を満たしているのに、加入させてくれない会社はブラック企業である可能性が高いです。
「せっかく新しい仕事を見つけたのに・・・」となる気持ちは分かります。しかし、最初から労働者の権利を奪うような会社ですから、今後も「長時間労働や残業代未払い」などの理不尽なことが起こる可能性が高いです。
早めにブラック企業だと気づけて良かった!と頭を切り替えて、新しい会社を探すのがベストです。
会社との関係がギクシャクしても良い場合の対処法
そうは言っても日銭を稼ぐ必要もあるし、転職先もそんなにすぐには見つからない・・・
会社に嫌がられても良いからなんとかならない?
という人は、最終手段として「年金事務所へ相談」をしてみて下さい
年金事務所では「被保険者資格の確認請求」という手続きが可能です。これにより、あなたが社会保険の加入対象者かどうか、年金事務所が調査をしてくれます。(参考:確認請求|日本年金機構)
そして、被保険者の資格があると認定された場合、会社側に社会保険に加入するよう指導が入ります。もし、それでも会社が加入手続きをしない場合は年金事務所が代わりに手続きをしてくれますよ。
社会保険への加入が認められても、年金事務所に相談したことが原因で”嫌がらせ”などをされる可能性もあるので気をつけて下さいね。
試用期間中の社会保険に関するQ&A
最後に、試用期間中の社会保険にまつわる細かい疑問を解決していきますよ!当てはまるものがないか、ざっと目を通してみてくださいね。
年収が130万円を超える予定なのであれば、原則として扶養は外れなければいけません。
現在、既に扶養に入っているのであれば当面は扶養のまま継続出来るかもしれませんが、扶養基準の判定においては過去に遡っての調査も行われます。
そこで違反が認められると、遡って社会保険料の支払いを求められる事もあるので、もしそれをするのであれば覚悟が必要です。
参考:社会保険の扶養条件パーフェクトガイド【記事未了】
なお、本文でも書いているように加入条件を満たしているにも関わらず、試用期間中だからといって社会保険に加入させないのはそもそも違法です(会社が違法)。まずは、そこを考えた方が良いでしょう。
戸惑いやすい事例として、次のような事例があります。
・試用期間:2ヶ月
・試用期間中の雇用形態:アルバイト
・試用期間が終わったら新たに契約して正社員(または契約社員)になる予定
「2ヶ月で契約が終わるので社会保険の適用対象外かな?」と思うかもしれません。しかし、この場合でも試用期間中から適用対象です。
ポイントは、「2ヶ月後も雇用されるのが前提かどうか」です。契約が更新される予定があるという事は継続的な雇用が前提になっていますね。つまり、社会保険の適用対象となります。
契約更新の可能性の有無は、雇用契約書などに記載されているはずです。気になる人は一度確認しておきましょう。
しかし、何度も言いますが条件を満たしているのに社会保険に加入させないのは違法行為です。今後もあなたが損することが考えられるため、転職をお勧めします。遡って支払ってくれる事も基本的にないでしょう。
もし遡って支払ってくれるのであれば、どのように支払うのか?あなたの給与からも天引きはされるのか?などを確認してください。
ただ、試用期間中に社会保険に加入させてくれない会社ですから、保険料を支払ってくれる可能性は少ないでしょう。その場合、社会保険に加入できなかった期間は自分で国民年金の支払が必要です。区役所・年金事務所で確認して下さい。
なお、転退職時の社会保険切り替え問題は「厚生年金と国民年金の切り替え手続の注意点」の記事もご覧ください。
最後に~社会保険に入らない場合のデメリットとは?
以上、試用期間中の社会保険にまつわる内容を見てきました。試用期間だからといって社会保険に加入できないのは辛いですよね。
社会保険に未加入だと以下のようなデメリットがありますよ。
- (転職の場合)国保・国民年金への切替手続をする必要がある
- 老後に貰える老齢厚生年金が減る
- 傷病手当金や出産手当金が貰えない
- 国民年金だけの時と比較して障害年金を貰える障害等級がせまい
- 遺族年金の遺族範囲の幅が狭い
どうしてもその会社で働きたい!という場合を除いては、もっと気持ちよく働ける場所を探す方が懸命なのかなと思います。