随時改定が発生すると月額変更届を提出しなければなりません。
しかし、随時改定は定時決定と比べると処理する機会が少ないので、「月額変更届」の書き方について悩んでいる人も多いのではないでしょうか?
そこで、この記事では「月額変更届」を書いたことが無い人向けに
- 月額変更届の各項目の意味
- 実際の随時改定事例を見ながらの記入例
- 随時改定と定時決定が被ったときの対処法
などを図解付で丁寧に解説していきたいと思います。
遡及支払などイレギュラーが発生した場合の書き方も紹介していますので、月額変更届の書き方で悩んでいる方はぜひ参考にして下さい。
なお、前提として「協会けんぽ」に加入されている事業所の場合について書いていきます。健康保険組合だと一部異なる部分があるかもしれませんので、詳細は現在加入されている健康保険組合にお尋ね下さい。
月額変更届の各項目の意味と記入上の注意点
まずは、月額変更届の各項目の意味について簡単に解説していきます。様式は下記ページからダウンロードしてくださいね。
⇒健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届 | 日本年金機構
提出者記入欄
それでは、用紙左上にある提出者記入欄から解説していきたいと思います。
項目 | 補足 |
---|---|
提出日 | この届出書を提出する日を記入。ポストに投函した日でOKです。 |
事業所整理番号 | 事業所ごとに付与された「数字ーカタカナ」の文字列です。毎月年金事務所から送付される「納入告知書」などに記載されています。 |
事業所所在地 | 住所 |
事業所名称 | 法人名(個人事業主の方は屋号、屋号がなければ個人名で可) |
事業主氏名 | 代表者氏名(肩書は書いても書かなくても良いです) |
電話番号 | 事業所の電話番号 |
提出者記入欄は特に悩むことはありませんね。
ちなみに、筆者会社のある神戸市の事例ですが、以下がいわゆる「納入告知書」と言われる書類です。
赤枠で囲った部分に「事業所整理番号」が記載されています。
月額変更届の被保険者内容記入欄
続いて、随時改定が行われる被保険者の内容を記入する欄について解説します。
①被保険者整理番号
資格取得時に払い出しされた被保険者番号を記入します。
資格取得時に年金機構から「健康保険・厚生年金保険資格取得確・標準報酬決定通知書」という書類が送られてきているはずです。そこに載っていますよ。
他に被保険者整理番号が分かる資料がない時は「健康保険証」をチェックして下さい。以下、赤枠で囲った部分の数字が被保険者整理番号です。
②被保険者氏名/③生年月日
②被保険者氏名
被保険者の姓名を記入。
③生年月日
下図のように元号と年月日を数字だけで記入します。
④改定年月
標準報酬月額が改定される年月。変動後の賃金を支払った月から4か月目を記入します。
たとえば、7月支払給与から変動したのであれば10月と記入します。
⑤従前の標準報酬月額
随時改定前の標準報酬月額を千円単位で記入します。
「健」のところには健康保険の標準報酬月額、「厚」のところには厚生年金の標準報酬月額を記載します。
大体の人は「健」「厚」に同じ金額が入るのですが、健康保険と厚生年金保険で標準報酬月額の幅が異なるので別で記載できるようになっています。
⑥従前改定月
「⑤従前の標準報酬月額」の適用が開始された月を記入します。
定時決定時から標準報酬が変わっていない場合は「○○年9月」になるのが通常です。
⑦昇(降)給
昇給または降給のあった月の支払月を記入し、該当する昇給または降給の区分を〇で囲みます。
支払月を記入するので、「当月末日締めの翌月払い」のような給与支払いサイクルの場合だと1月ズレるので注意して下さい。
たとえば、4月勤務分から昇給した場合で、給与支払いサイクルが「当月末日締めの翌月払い」だと「5月」が昇給月になります。
⑧遡及支払額
いわゆる昇給差額が発生した場合のこと。さかのぼって昇給する場合に記入します。遡及分の支払いが行われた月と訴求分の金額を記入して下さい。
たとえば、5月に1万円の昇給が決まったが昇給自体は4月までさかのぼり、4月昇給分は5月に支給された場合、「訴求支払月:5月、訴求差額分:10,000円」と記入します(当月締当月払いの場合)。
遡及分の支払いがない場合は空欄にしておいて大丈夫です。
⑨給与支給月
変動後の給与を支払った月から3月分を記入します。
こちらも支払った月から記入することに注意。
例)当月末日締翌月払いの会社で、7月分の給与から変動した場合、変動後の給与は8月から支払われますので、8月9月10月と記入します。
⑩給与計算の基礎日数
給与計算の対象となる日数を3か月分記入します。
月給者・週給者の場合は暦日数(*)、日給者・時給者の場合は出勤日数などの給与支払いの基礎となった日数を記入して下さい。
<<給与が翌月払いの時は要注意>>
ここは項目名が「基礎日数」となっている事から分かるように「給与支払月の給与を計算する元になる月の日数」を書きます。
例)末締め翌月払いの会社において、8月分の給与は9月支払いとなります。このため、9月の支払基礎日数は30日ではなく、8月分の給与を計算する基礎となった31日と記載することになりす。
⑪通貨によるものの額/⑫現物によるものの額
それぞれ「⑨給与支給月」に記載した月に支払った金額を記入します。
⑪通貨によるものの額
給与や手当等の名称を問わず、労働の対象として通貨(金銭)よって支払われた金額を全て記入します。(参考:通勤手当は標準報酬月額に含まれます!手取りが減る以外の影響は?)。
なお、「⑧訴求支払額」がある場合には、それも含めた金額を記入します。
⑫現物によるものの額
通勤定期券の現物支給や食事補助がある場合には「厚生労働大臣によって定められた額」を参考に金額換算して記入します。ない場合は0円としておきます。
⑬合計/⑭総計/⑮平均額/⑯修正平均額
⑬合計
「⑪通貨によるものの額」と「⑫現物によるものの額」の合計額を記入します。
⑭総計
「⑬合計」の3カ月分を合計した金額を記入します。
⑮平均額
「⑭総計金額÷3」をした金額を記入します。端数が出た場合には、1円未満を切り捨てます。
⑯修正平均額
修正する金額がある場合のみ記入します。
たとえば「⑧訴求支払額」で説明した昇給差額がある場合には、「(⑭総計-⑧訴求支払額)÷3」で計算した金額が訴求支払額になります。
⑰個人番号(基礎年金番号)/⑱備考
⑰個人番号(基礎年金番号)
70歳以上被用者のみ記入します。個人番号もしくは基礎年金番号を記入して下さい。
⑱備考
該当するものに丸をつけます。4.「昇給・降給の理由」と6.「その他」の場合にはかっこ内も記入しましょう。
月額変更届の書き方を記入例付きでチェック!【事例あり】
ここまで、月額変更届の項目の解説や注意点について述べてきました。次に、月額変更届の記入例を見ていきましょう。
なお、下記具体例はいずれも随時改定条件(3ヶ月連続して2等級以上の変動)に該当しているものとして紹介していきますね。協会けんぽの保険料額表は都道府県毎の保険料額表 | 全国健康保険協会でご確認下さい。
具体例①:一般的な昇給パターンの場合(当月締翌月払)
具体例①では、以下の前提で月額変更届の書き方を見ていきます。
・氏名:山田太郎(70歳未満)
・従前の標準報酬月額:300,000円
・昇給の内容:9月勤務分から基本給280,000円⇒350,000円に昇給(実際の支払は10月)
・給与形態:月給(欠勤控除なし)
・給与支払サイクル:当月締翌月払
・現物給与:通勤定期は現物支給
【昇給後の報酬内容】
これを月額変更届に表すと以下のようになります。
以下、分かりにくい部分についてコメントしていきますね。
④改定年月
変更後の給与が支給されてから4ヶ月目を記入するので、令和1年10月から数えて4ヶ月目の「令和2年1月」になる。令和2年1月支給分の給与から改定されるということです。
⑥従前改定月
今回の条件の場合、定時決定により令和1年9月に改定が行われているはずなので「令和1年9月」となります。
⑨支給月
変動後の給与を支払った月を3カ月分記入するので、上から順に「10月」「11月」「12月」です。
⑩給与計算の基礎日数
今回の事例は、月給者(欠勤控除なし)なので暦日数を記入します。月末締翌月払いですから上から順に
「30日(9月の暦日数)」
「31日(10月の暦日数)」
「30日(11月の暦日数)」
と記入します。当月締翌月払の会社なので”給与支給月前月の暦日数”を記入するということです。
⑮平均額
今回の事例では端数が出ているため、端数を切捨てた上で「370,815円」と記入します。
⑱備考
「4.昇給・降給の理由」に丸をつけ、かっこ内には「基本給の変更」と記入します。
【参考】具体例②:一般的な昇給パターンの場合(当月締当月払)
具体例①で見た事例は、一般的な会社の給与支払サイクルで採用されている「当月締翌月払」の場合です。では、「当月締当月払」だったらどうなるのでしょうか?
具体例①と前提が違うのは「給与支払サイクル」だけと仮定しますよ!つまりこんな感じです。
具体例②の書き方はこちら。
変わったところは
④改定年月
⑦昇(降)給
⑨支給月
⑩日数
の部分だけですね。
具体例③:昇給差額が支給された場合
続いて、昇給差額が支給された場合の事例。「⑧遡及支払額」や「⑯修正平均額」に記入する必要があるケースですね。
前提は以下の通りです。
・氏名:山田太郎(70歳未満)
・従前の標準報酬月額:470,000円
・昇給の内容:基本給420,000円⇒490,000円に昇給
・遡及支払額:昇給は9月勤務分にさかのぼり昇給、差額が10月勤務分に合わせて支給された。
・給与形態:月給(欠勤控除なし)
・給与支払サイクル:当月締翌月払
・現物給与:なし
【昇給後の報酬内容】
これを月額変更届に落とし込むと以下のようになります。
こちらも注意すべきところだけコメントしていきますね。
④改定年月
遡及支払が発生していますが、実際に改定後の給与が支払われたのは11月支給分からですので、11月から4ヶ月目の「令和2年2月」支給分給与から標準報酬月額が改定されます。
⑦昇(降)給
昇給自体は9月勤務分にさかのぼり支給されているので、ここは9月勤務分の本来の給与支給月である「10月」が入ります。
⑧遡及支払額
11月に遡及分給与が支払われているので「11月」と記入し、遡及分(昇給差額分)の給与の金額を記入します。遡及分の金額は70,000円。
⑨支給月&⑩日数
④の改定年月と同じで、実際に改定後の給与が支払われ始めたのは11月支給分の給与からなので、上から順に「11月」「12月」「1月」と記入。日数は、当月締翌月払の会社なので”給与支給月前月の暦日数”を記入します。
⑮平均額
遡及支払額も含めた「⑭総計」の金額を単純に③で割ります。
計算式:1,644,102円÷3=548,034円
⑯修正平均額
遡及支払額を除いた支給額を計算します。「(⑭総計-⑧遡及支払額)÷③」です。
計算式:(1,644,102円-70,000円)÷3=524,700.66円⇒端数切捨処理で524,700円。
なお、遡及支払額が発生するようなイレギュラーケースでは、別紙に詳細を記入しまとめて封筒に一緒に入れておくと、状況がよりよく伝わりますよ(*)。
分からない部分があるのであれば、直接年金事務所へ行って聞いてみるのが一番良いですよ。
随時改定が7月・8月・9月にある場合の算定基礎届の書き方!月額変更届と算定基礎届は両方出すのか?
標準報酬月額は1年に1回、4月・5月・6月に支払われた給与を元に改定されます。これを定時決定と言い、定時決定で決まった標準報酬月額は原則として9月~翌年8月まで使用されます。
では、随時改定が7月・8月・9月にある場合はどうなるのか?というと、以下の画像のように、定時決定ではなく随時改定で決まった標準報酬月額が優先的に使用され、これを翌年8月まで適用します。
この時、随時改定が優先されるのであれば定時決定の届出である「算定基礎届」はどう記載すれば良いのでしょうか?
結論から言いますと、7月・8月・9月に随時改定が予定されている場合、当該被保険者の算定基礎届は記入しなくてOKです。
上画像のように、「⑱備考欄」の「3.月額変更予定」に丸を付けて、その他のカッコ書きのところに7月・8月・9月のどこで月変対象なのか(何月に随時改定なのか)を記載して、あとは通常通り月額変更届を提出して下さい。
あと、下記の日本年金機構のページもご参照くださいね(郵送提出の場合と電子申請の場合だと少しやり方が違います。上記は郵送の場合)。
参考:算定基礎届の提出|日本年金機構
参考:8月、9月の随時改定予定者にかかる算定基礎届の提出について|日本年金機構
まとめ
月額変更届の書き方は意外に面倒ですよね。ただ、基本的な書き方としては算定基礎届と同じですから、慣れれば大丈夫です。
こちらは日本年金機構が毎年出している算定基礎届のガイドブックですが、月額変更届の書き方にも応用できるので、イレギュラーケースがある場合はこちらも参照すると良いと思います。
⇒算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和元年度版)| 日本年金機構
なお、月額変更届の書き方以外のルールに関しては「日本年金機構の月額変更届の提出ページも参照して下さい。