「前の会社で確定拠出年金に加入させられていたけど、自分は掛け金を拠出するつもりも無いし運用もしたくない。手数料が取られるのも嫌だし何とか解約できない?」
この疑問、知らないうちに企業型確定拠出年金に加入していた人が、会社を退職した時によく抱く疑問です!
しかし残念ながら、解約条件が非常に厳しいので、確定拠出年金を解約して返金を受けるのは難しいです。多くの人は事実上解約不可と考えて良いでしょう。
ですので、解約できない事を前提として、いかに無駄なお金を払わないように確定拠出年金と付き合っていくかが大事になってきます。
そこで、今回の記事では、確定拠出年金を続けざるを得ない場合の対処法を事例を交えながら分かりやすく解説するとともに、多くの人が陥りがちな「定期預金の罠」について紹介したいと思いいます。
とは言え!解約できる人も少数ながら存在しますので、まずは確定拠出年金の解約条件(企業型・個人型両方の解約条件)から見ていきます。
⇒確定拠出年金が解約できないときの対処法を先に見たい方はこちら
確定拠出年金の解約・返金条件の前提
確定拠出年金の解約条件は、2016年12月以前に資格喪失したのか2017年1月以降に資格喪失したのかにより若干異なります。
この記事を読んでいる方の場合、2017年1月以降の解約条件を知りたいと思うので、2017年1月以降に資格を喪失する場合の解約条件を紹介していきます。
以下、企業型確定拠出年金(以下、企業型DCと表記する場合あり)と個人型確定拠出年金(以下、iDeCoと表記する場合あり)に分けて、それぞれの解約条件を見ていきます。
企業型確定拠出年金の解約・脱退一時金が受け取れる条件
企業型DCを解約して脱退一時金を受け取ることができるのは、退職時に以下の3つの条件をすべてを満たしている場合です。(参考:確定拠出年金法附則2条の2、確定拠出年金法施行令59条)
- 企業型DC及びiDeCoの加入者・運用指図者でないこと(*1)
- 個人別管理資産(確定拠出年金の資産額)が15,000円以下であること
- 企業型DCの資格喪失日の属する月の翌月から起算して6ヵ月を経過していないこと(*2)
*2 企業型DCの資格喪失日は”退職日の翌日”です(参考:確定拠出年金法11条)。末日に退職したか末日以外に退職したかによって6ヶ月の計算の仕方が少し異なるので注意しましょう。
iDeCoの場合とは異なり加入期間に関する条件は無いですが、個人別管理資産の金額条件が15,000円と少ないので、ある程度の期間加入し続けていると解約は難しいでしょう。
注:企業によっては、3年以内に退職すると掛金の元本部分が没収される「事業主返還」制度を採用していることがあるので、その場合には解約できる可能性もあります。ただし、その場合に手元に現金として入ってくるのは運用益のみです。
自動移換になるとデメリットだらけ!退職後は必ず手続きしよう
企業型DCを解約する条件はかなり厳しいです。でも、解約できないからと言ってそのまま放置するのは絶対に避けましょう。
退職で企業型DCの資格を喪失してから6ヶ月以上何もしないままだと、自動移換という処理がされてしまいます。
自動移換されてしまうと以下のようなデメリットがあります
- 余分な手数料・手間をとられる
- 運用が出来ないので資産が増えない
- 受取開始可能年齢が遅くなる
自動移換のデメリットおよび、退職後の手続き方法については以下の記事で詳細に解説しているので、こちらも御覧くださいね!
[getpost id=”10789″ target=”_blank”]個人型確定拠出年金(iDeCo)の解約・脱退一時金が受け取れる条件
iDeCo(個人型確定拠出年金)を解約できる条件は、以下のすべての条件に該当した場合です。(参考元:確定拠出年金法附則3条、確定拠出年金法施行令60条)
- 国民年金の保険料免除者または納付猶予者・学生納付特例適用者であること
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者ではないこと
- 通算拠出期間(*1)が1ヵ月以上3年以下、または個人別管理資産が25万円以下であること
- 企業型DCまたはiDeCoの資格喪失日の属する月の翌月から起算して2年を経過していないこと
- 企業型DCから脱退一時金の支給を受けていないこと
iDeCoは”公的年金に上乗せする私的年金”という扱いなので、国民年金保険料が免除されるほど経済的に厳しい場合にしか解約できません。
なお、企業型DCがない企業にお勤めの会社員の方は、個人でiDeCoに入ることも多いと思いますが、会社員は厚生年金加入者(=国民年金にも加入していることになる)なので、解約できません。
また、国民年金保険料免除者であっても、過去の拠出金額や拠出期間が多いと解約できないので、iDeCoも解約できるのは非常にレアケースだと言えるでしょう。
確定拠出年金が解約できないときの対処法
ここまで、確定拠出年金は原則として解約できない!という話を見てきました。
では、解約できない人は確定拠出年金とどうやって付き合っていけば良いのでしょうか?
なお、確定拠出年金を解約できない場合、基本的に全ての人が「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を利用することになると思いますので、ここからはiDeCoを前提に話を進めて行きます。
この点、人によって以下のように取る行動が分かれると思いますが、
- ①解約できないならガンガン運用したい
- ②解約できないならせめて支出を最小限に抑えたい
この記事を読んでくれている方の場合、「②出来るなら運用もしたくないし手数料も払いたくない」人が多いのではないでしょうか?
そこで以下では、確定拠出年金関連の費用を最小限に抑えるための対処法を見ていきます。
以下2つのSTEPで、あなたにとって最適な方法が分かりますよ。
STEP1:運営管理機関の手数料をチェックする
STEP2:加入者と運用指図者のどちらになるか確認する
STEP1:運営管理機関の手数料を比較して移換すべきか否か検討する
まずSTEP1として、運営管理機関の手数料をチェックしましょう。
なぜなら、iDeCoの手数料は口座開設する金融機関によって大きく異なるからです。
企業型DCからiDeCoに移換する人はもちろんのこと、iDeCo加入済みの人でも高い手数料を取る金融機関を選択しているのであれば、検討の余地ありです。
参考までに、2019年4月時点で編集部が把握している金融機関のiDeCo手数料を、最安値・最高値で比較すると以下のようになります(括弧書きは年額手数料です)。
加入者の場合の月額手数料 | 運用指図者の場合の月額手数料 | |
---|---|---|
最安値の金融機関 | 167円(2,004円) | 64円(768円) |
最高値の金融機関 | 617円(7,404円) | 514円(6,168円) |
差額 | 450円(5,400円) | 450円(5,400円) |
上記のように、手数料の安い機関と高い機関を比較すると、加入者の場合でも運用指図者の場合でも年間で5,400円も変わってきます。
ただ、一つ忘れてはならないのが金融機関を変更する際に発生する「4,320円の移換手数料」の存在です。移換手数料は”既にiDeCo加入済みの方が金融機関を変更する場合”も”企業型DCからiDeCoに移換する場合”も必要です。
ですが、どちらにせよ現在高い手数料を払っているのであれば検討の余地ありですよね。手数料の差額が年額2,000円なら、4,320円の移換手数料は2年ちょっとで元が取れますしね。
なお、上記の最安機関としては「マネックス証券・SBI証券・イオン銀行・大和証券・松井証券・楽天証券」などが挙げられます。
手数料が安い機関は、iDeCoの商品ラインナップも素晴らしいものである場合が多いので(つまり、iDeCoに力を入れているってこと!)、どこで口座開設するか迷ったら上記のいずれかから選んでおけば間違いありません。
仮に、将来ガンガン運用したい!と心変わりした場合でも、良い商品が多いので、わざわざ再度金融機関を変更する、なんてことをしなくて良くなります。
よって、相場状況によっては損失が出る可能性があります。(元本確保型の定期預金や保険商品は途中解約すると元本割れすることもあります)
運営機関を変更するときは、そのタイミングで資産を売却したら損失が出るのかどうかもしっかり考慮したほうが良いでしょう。
STEP2:加入者OR運用指図者のどちらになるか検討する
続いてSTEP2です。
確定拠出年金には「加入者」と「運用指図者」の2つの身分があり、どちらになるかを自分で選択できます。
言葉の定義を示すと以下の通りです。
- 加入者・・・新規に掛金を拠出して運用指図も行う人
- 運用指図者・・新たな掛金の拠出は出来ず、これまで積み立ててきた資産の運用指図だけ行う人
そして、加入者の場合と運用指図者の場合で、最低どれくらいの費用・支出が発生するのかをまとめた表がこちら。(括弧書きは年額です)。
項目 | 加入者 | 運用指図者 |
---|---|---|
最低掛金 | 5,000円(60,000円) | 0円 |
金融機関手数料(最安の機関を選択した場合) | 167円(2,004円) | 64円(768円) |
合計支出(*) | 5,000円(60,000円) | 64円(768円) |
STEP1で最安の金融機関を選択していることが前提ですが、加入者であれば月額5,000円(年額6万円)、運用指図者であれば月額64円(768円)の支出で済みます。
つまり、取りうる手段としては以下の2つです。
- 多少は掛金を出したい⇒加入者となり掛金額は最低掛金(月額5,000円)まで落とす
- 掛金を一切出したくない⇒運用指図者となり毎月64円(年額768円)の手数料を負担する
限りなく支出を減らしたい!という方の場合は「最安の金融機関を選択して運用指図者になる」のが正解ですかね。
ただし、加入者と比べて運用指図者には以下のようなデメリットがあります。
- 新規に掛金を拠出しないので所得控除が受けられない(節税できない)
- 運用指図者期間は勤続年数に含まれないので退職所得控除の枠が少なくなる
この辺りも踏まえて、どうするか決定しましょう!
あわせて「運用指図者と加入者の違い【記事未了】」をご覧頂くと、選択する際の手がかりになるかなと思います。
【定期預金の罠に注意】運用商品選びは慎重に!定期預金だけだと資産が目減りするかも!
ここまで、「確定拠出年金関連の費用支出を最小限に抑える方法」について書いてきましたが、ここで一つ注意して欲しいことがあります。
それが「運用指図者が運用商品を定期預金にすると資産が目減りする可能性大なので要注意」ということです。
ご存知のように、確定拠出年金は「加入者」であれ「運用指図者」であれ、あなたが自分で運用商品を選びます。
この時、安易に「元本割れする恐れのない定期預金」を選んでしまうと、定期預金の利息が手数料に負けてしまって、資産がどんどん目減りしてしまう現象が起こるのです。
たとえば、筆者が加入しているSBI証券(セレクトプラン)で用意されている定期預金商品の利率(あおぞらDC定期1年もの)は0.02%(2019年4月8日基準)しかありません。
利率が0.02%だと100万円のiDeCo資産があっても年間200円しか利息が付きません。
SBI証券の運用指図者の年額手数料は768円(月額64円)ですから、毎年568円(768円-200円)は資産が減っていくということです。
さらに言うと
・年額手数料:768円
・定期預金利率:0.02%
という状況で、手数料と同じ利息を得るためには、384万円の元本(*)が必要になります。
超低金利時代の日本において、一気に確定拠出年金用の定期預金利率が上がるとは考えにくく、多くの場合で定期預金に置いたままにしておくと手数料負けする可能性が高いです。
現時点で確定拠出年金を解約出来ないということは、結局のところ60歳まで資金を引き出せないのと同義です。
だったら、思い切ってリターンの期待できる投資信託に資金を振り向けて置くのも有りかなと思うので、この辺りも検討してみて下さい。
【補足】運用商品に定期預金を選んだ場合に手数料負けするかどうか一発で分かる計算式
さきほどチラッと計算式を出しましたが、手数料負けするかどうかを一発で出す計算式を紹介しておきます。
前提として”運用指図者”を想定しています。(注:加入者の場合は、掛金の所得控除で節税できるので手数料負けしたからと言って必ずしも損にはならないので、ここでは除外)
<<計算式>>
A(手数料率):金融機関手数料(年額)÷あなたのiDeCo資産額
B(定期預金利率):あなたが選んだ金融機関の定期預金利率
A>Bであれば手数料負け
B>Aであれば利息の方が多い
という感じですね。
計算方法の事例を一つ挙げておきます。
<<事例>>
前提
①iDeCo資産額:500万円
②定期預金利率:0.02%
③金融機関手数料:768円
計算
A(手数料率):768円÷5,000,000円=0.01536%
B(定期預金利率):0.02%
B>A、なので手数料負けはしない(利息の方が多い)という事になります。
【参考】投資信託にするとどれくらいお金は増えるのか?
参考までに、定期預金ではなく投資信託にするとどれくらいお金が増えるのか?考えてみたいと思います。
まず前提として、日本が今後経済成長するかどうかは意見が分かれるところです。
しかし、世界経済は今後数十年は成長していく可能性が高いです。(もちろん、景気の浮き沈みはありますよ。ただ、世界人口はまだまだ増えるので総量としての経済価値は数十年単位で見れば増える可能性が高く、株価も上がる可能性は高い)。
従って、外国株式市場にも投資することを前提とすれば、過去のリターン率から見て、今後数十年単位で考えても年利3~4%程度くらいの成長は可能だと思います(注:年利3~4%は筆者の意見です。算出方法はこちらの記事を参照して下さい)。
仮に元本100万円を年利3%で30年間運用すれば、新たな掛金拠出が無くても資産は約242万円まで増えます。定期預金にして目減りさせるくらいなら、投資をするという考え方もぜひ検討してみてくださいね!
【参考】確定拠出年金に貸付制度や資産の一時引き出し制度は無い
確定拠出年金を解約したい人の中には、急ぎでお金が必要な人もいるかと思います。
解約はせずとも、確定拠出年金の資産を担保に貸付をしてもらったり、一部を引き出したりはできないのか?と疑問に思っている方も多いでしょう。
残念ながら、確定拠出年金の資産は途中で引き出すことも、担保にして貸し付けを受けることもできません。
積み立てた資産を引き出せるのは、以下のいずれかに該当する場合だけです。(参考:給付金をお受け取りになる方|JIS&T)
- 60歳に達したとき(加入期間が短い場合は最遅で65歳まで後ろ倒し)
- 解約したとき(条件を満たす場合)
- 「障害給付金」や「死亡給付金」の条件を満たしたとき
公的年金受給者の場合には「年金担保融資制度」があるので将来の年金を前借りすることも可能ですが(年金担保融資制度も平成34年3月で終了予定)、確定拠出年金加入者の場合は無理なのです。
米国版の確定拠出年金だと資産を担保に貸付を受けたりすることができるそうですが、日本にその制度はありません。今後の改正に期待するほかないでしょう。
まとめ
長くなったので、今回の記事の要点をまとめておきたいと思います。
- 確定拠出年金を解約するのはなかなか難しい(解約条件を再度チェックする方はこちらをクリック)
- 確定拠出年金関連の費用支出を最小限に抑えたい場合は「最安金融機関を利用し運用指図者になる」が正解
- ただし、定期預金だけだと手数料負けしてしまう可能性が高いので投資信託での運用も考えるべき
- 【参考】確定拠出年金に資産の貸付制度や一時引き出し制度はない
解約できたら儲けものですが、多くの場合で解約できません。
解約できない場合には、何が自分にとって最適なのか考えて行動するようにしてくださいね。