国民年金を払っていない方がどれくらいいるか知っていますか?
2017年度末時点での国民年金の未納率は約34%です!(関連記事:国民年金の未納率(納付率)の推移グラフ【世代別情報込】)。国民年金保険料の納付は義務なのにも関わらず、納付していない方は結構多い事が分かりますね。
国民年金は老後の年金の為に若いうちに積立てておくものなので、払っておかないと将来年金をもらう事が出来ません。
しかも、年金制度は世代間の相互扶助によって成り立つものです。きちんと納付をしない方がいると、自分の年金だけでなく年金制度自体の存続も危ぶまれてしまいます。
その為、国は何とか未納者から保険料を徴収しようと、国民年金を納付していない方に対する強制徴収手続きを年々厳しくしているのです。
既に、平成30年度からは「控除後所得額300万円以上かつ未納月数7月以上」の方が強制執行の対象となありました。
過去から強制執行基準がどれくらい厳しくなって来たのか気になっている方もいるでしょうから、ここでは、国民年金の強制執行基準厳格化の流れについて見ていく事にしましょう。
国民年金の強制徴収とは?滞納から差押までの流れ
国民年金の保険料を滞納している方に対する強制執行については、国民年金法第96条第1項及び第4項で規定されています。
第96条 保険料その他この法律の規定による徴収金を滞納する者があるときは、厚生労働大臣は、期限を指定して、これを督促することができる。
2・3項〜省略〜
4 厚生労働大臣は、第一項の規定による督促を受けた者がその指定の期限までに保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、国税滞納処分の例によつてこれを処分し、又は滞納者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村に対して、その処分を請求することができる。
要は、年金を滞納している方に対して督促と滞納処分(財産の差押)が出来るという事ですね。しかも、「国税の滞納処分の例」によって行われると有りますよね。国民年金の保険料は税金と同じ扱いなので厳しく取り立てますよ、と規定されているのです。
但し、滞納したからといってすぐに強制執行される訳ではなく、一定のステップを踏んで、それでも納付がされない場合の最終的な手段として強制執行が用意されています。
差押までの流れを簡単に書くと以下の様な感じです。
- 納付期限までに保険料を納付せずに「滞納者」となる
- 納付に関する催促の電話や文書が届く
- 特別催告状が届く
- 最終催告状が届く
- 督促状が届く
- 差押予告通知書が届く
- 財産を差押えされる
⇒国民年金を滞納したらどうなるの?督促・延滞金・差し押さえまでマルっと解説
通常であれば、電話や文書で催促されたり、催告状が届いたら滞納分を納付しますよね。それでも納付しない悪質な滞納者に対して財産の差押をしましょう、という感じですね。
強制執行基準の厳格化の流れ〜年収(所得)や納付月数で対象者が決まる!〜
以下では、過去から現在に至るまでの強制徴収基準の流れについて見ていきましょう。
国民年金の保険料収納事務は、昭和63年〜平成2年にかけて各市区町村が行っていたのですが、その期間に強制徴収されたのはたったの3世帯5人だけでした。
そこで、「電話や文書で納付のお願いするだけで、納付率を上げるのには限界が有る」と感じた当時の社会保険庁は、平成15年度から上で紹介した国民年金法の規定に基づいた「督促と滞納処分」を実施する方針に切り替えたのです(参照元:会計検査院「平成15年度決算検査報告」)。
しかし、あくまでも自主納付を期待していたので、強制執行をする事についてはまだまだ消極的な姿勢を見せていました。
それでは思う様に納付率は上がらないですよね・・・。
そこで、平成16年度以降、かなり本腰を入れて最終催告状の発行や差し押さえを行うようになりました。
但し、保険料の徴収が加速したのも束の間、平成19年に発覚した年金記録問題の対応に追われて強制徴収に中々手が回らず、着手件数は激減。平成19年度に強制徴収されたのは、滞納している保険料全体のわずか0.2%程度でした。
ここまでの流れは、以下の強制徴収の実施状況を見れば一目瞭然です。
年度 | 最終催告件数 | 督促件数 | 差押件数 |
---|---|---|---|
平成15年度 | 9,653 | 418 | 50 |
平成16年度 | 31,497 | 4,724 | 744 |
平成17年度 | 172,440 | 57,470 | 10,997 |
平成18年度 | 310,551 | 119,177 | 13,970 |
平成19年度 | 40,727 | 8,980 | 730 |
平成18年度に督促や差押の件数が一気に増えて、翌年に年金記録問題で一気に減少していますね。
参考:平成20年度以降は最終催告状の送付を「年間60万件」を目標に強制徴収の計画を立てていましたが、年金記録問題によって思う様にはいきませんでした。なお、60万件という数字は、過去2年間の未納者のうち世帯所得が500万円以上の方が120万人いたので、1年換算で60万人とした様です。
平成25年度末頃になると年金記録問題も落ち着いてきたので、日本年金機構は強制徴収の取組を強化し、毎年2月〜3月頃に一斉に対象者から強制徴収をする様にしました。そして、その際の対象者は「控除後所得額400万円以上かつ未納月数13ヶ月以上」です。
中でも、所得額が1,000万円以上の方については厳しく徴収をする様になっています。
その後、現在に至るまでに強制徴収対象者の範囲は以下の様に厳格化されています。
年度 | 所得及び未納月数の条件 |
---|---|
平成25年度 | 400万円以上&13月以上 |
平成26年度 | 400万円以上&13月以上 |
平成27年度 | 400万円以上&7月以上 |
平成28年度 | 350万円以上7月以上 |
平成29年度 | ・300万円以上〜350万円未満&13月以上 ・350万円以上&7月以上 |
平成30年度 | 300万円以上&7月以上 |
年々対象範囲が広がっている事が分かりますね。「自分は収入が少ないから大丈夫」と高をくくっていると、放っておくと財産を差し押さえられてしまうかもしれませんよ。
なお、平成28年度に実施された財産差押件数は13,962件ですが、その内605件が控除後所得1,000万円以上の方です。お金が十分に有るはずなのに納付しない人がこんなにいるのには驚きですね・・・。
ちなみに、平成30年度から強制執行の対象者が拡大される事について、ネット上では「低所得者は今まで以上に貧乏になりますね」「貧困層から差押するなんてイジメだね。」「年金というより税金!?」といった様な意見が飛び交っている様です。
参考:強制執行された方の多い都道府県ランキング
保険料の未納により強制執行される方は、都道府県によって偏りが有るのでしょうか?参考までに、平成28年度中に財産を差し押さえられた方の多い都道府県を5つ見てみましょう。
順位 | 都道府県 | 差押件数 | 差押件数の内、所得1,000万円以上 |
---|---|---|---|
1位 | 東京都 | 2,354 | 95 |
2位 | 神奈川県 | 1,151 | 58 |
3位 | 千葉県 | 1,140 | 53 |
4位 | 埼玉県 | 1,070 | 40 |
5位 | 愛知県 | 1,062 | 47 |
差押件数の多い都道府県は都会である事が分かりますね、人口が多いので多くなるのは当然といえば当然ですけどね・・・。
ちなみに、最も差押件数が少なかったのは熊本県の7件(内、所得1,000万円以上は0人)でした。
保険料の納付を強制する今の年金制度はおかしい!?
年金は自分の老後の為の積立です。そう考えると、「老後の資金なんて必要ない」と考えている人からすれば納付する理由が無いですよね。
しかし、20歳以上60歳未満の方は国民年金の加入は義務なので、保険料も毎月納付しなければなりません。払いたくなくても払わなかったら税金と同様に財産の差押えをされてしまいます。
「納付を強制する年金制度っておかしい!」と思う方も中にはいるでしょう。
確かに、国民年金を老後の生活資金と考えると、満額でも年額779,300円(平成30年度時点)なので、決して十分な金額では有りません。それなら国民年金を払わずに自分で代わりの収入源を確保しておいた方がいい、と考えるのにも一理は有ります。
しかし、国民年金は実際には加入者からの保険料納付以外にも、税金が投入される事で成り立っています。それに、高齢者にならなくても事故や病気などによって障害を負った場合は、障害年金や遺族年金を貰う事も出来ます。
また、冒頭でも書いた様に国民年金は世代間の相互扶助により成り立つものです。現役世代が年金を払わないと、制度自体が崩壊してしまう可能性も有ります。
従って、「単に自分の老後の資金を貯めているだけ」と考えるのではなく、「皆が安心して暮らせる環境を維持する為に必要なもの」、と考えて納付していく事が必要なのです。
国民年金は納付出来る資力の有る方はきちんと納付し、納付が厳しいという方には免除・猶予制度が用意されているので、正当な理由無く滞納するのだけは避けたいところですね。
まとめ
国民年金の強制執行基準は、年々厳格化が進んでいる事が分かりましたね。
法律上は督促については「することができる」と書かれているのですが、現実的には条件を満たした方については必ず督促される様な仕組みになっているので、免除や猶予を受けていない方が滞納していると強制徴収される可能性が有ります。
しかも、国民年金の保険料は配偶者や世帯主に連帯納付義務が有るので(国民年金法第88条第2項・3項)、「自分は滞納していないからいいや」という訳にはいきません。
可能な限り期限までに納付し、資金的に余裕が無く納付が難しい場合は免除や猶予の申請を前向きに考える様にしましょうね。