養育費の金額は夫婦の話し合いで決まることが多いです。でも、二人だけで決めた場合、それが本当に適切なのか気になりますよね。
特に収入が増減したりどちらかが再婚したりして状況が変わったら、最初は納得していた金額も妥当と思えなくなることもあるでしょう。
実は、養育費には夫婦の収入状況や子供の数によってある程度相場が決まっています。
さらに、状況が変われば養育費が増減したり、免除になったりすることもあります。
そこで、今回は養育費の平均額や、年収別の相場事例を紹介すると共に、増額・減額または免除できるケースも紹介していきます。
養育費が妥当な額か不安な人は、ぜひ参考にしてくださいね。
この記事では、以降わかりやすいように監護親=元妻、非監護親=元夫として説明していきます。
そもそも養育費とは?支払う義務はあるのか?
養育費は、未成熟の子どもを養育するために、元夫が元妻に対して原則として必ず支払わなければならない費用です。
たとえ離婚したとしても、元夫にも子どもを扶養する義務は残ります。(民法 877条 1)
未成熟の子どもに対する養育費の支払義務(扶養義務)は、親の生活に余力がなくても自分と同じ生活を保障するという強い義務(生活保持義務)だとされています。 自己破産した場合でも、子どもの養育費の負担義務はなくなりません。
引用元: 養育費のこと|養育費相談支援センター
このように、養育費は「もう家族ではなくなったから」とか「自分にも余裕がないから」という安易な理由で拒否することのできない強い義務です。
そして、養育費は元妻に対する義務であると同時に子どもに対する義務でもあり、子ども自身が持つ権利でもあるのです。よって、元夫婦間の合意で支払い不要の取り決めをしても、もし子どもが請求した場合は支払う義務があります。
つまり、養育費とは、「夫婦間の合意があれば支払うもの」ではなく、「法的に定められた義務」であると認識しましょう。
養育費の支払い義務はいつからいつまで?⇒多くは離婚した月から、子どもが20歳になるまで
養育費の金額の決め方とともに悩みのタネとなるのが、いつからいつまで支払う必要があるのかということでしょう。
まず、養育費の支払い開始時期については特に法的な決まりはありません。ただ、実際は離婚した月から、もしくは離婚した月の翌月からと決まることが多いようです。
逆に、養育費の支払いが終わる時期については、ある程度法律によって定められています。
養育費の概念は、「未成熟の」子どもを扶養する義務から発生しています。
したがって、子どもが以下に該当した場合は「未成熟子」と見なされず、原則として支払いが不要になります。
- 20歳の誕生日を迎える
- 20歳未満で結婚する
- 20歳未満で就職し、経済的に自立できるだけの収入がある(収入が少ない場合は減額だけの可能性もある)
ただし、上記はあくまで法律上の原則で、期間の延長・短縮についての夫婦間の同意があれば、こちらが優先されます。
逆に「離婚調停調書」や「離婚協議公正証書」(公的な第三者が作成する離婚条件の証明書)の中で既に支払期限の取り決めがされている場合は、調停を申し立てられると書面の内容が優先される可能性があるので注意しましょう。
養育費の平均額はいくら?
平成28年度の統計によると、養育費の平均支払い月額は以下のとおりでした。
子どもの数 | 母子世帯 | 父子世帯 |
---|---|---|
1人 | 35,438円 | 28,125円 |
2人 | 50,331円 | 31,200円 |
3人 | 54,357円 | 46,667円 |
4人 | 96,111円 | - |
全体平均 | 43,482円 | 32,238円 |
子どもの数が1~2人なら、母子家庭は4~5万円、父子家庭は約3万円が平均額となります。
養育費の決め方・計算方法は?
先のセクションでは統計上の平均額を紹介しましたが、年収1000万の元夫&専業主婦の夫婦と、年収300万の元夫&年収600万の元妻の夫婦では、妥当な養育費も違うはずですよね。
妥当な養育費の金額はどのようにして計算したら良いのでしょうか?
調停離婚においては、子どもの数、子どもの年齢、元夫婦それぞれの収入額をベースに、子どもの生活費を計算し、元夫婦の負担割合を計算しています。
なお、ここで大切なのは、子どもの生活費は「収入の高い方の親」と子どもが同居していることを仮定して計算されていることです。
これは、”自分の生活水準を落としてでも、子どもに同じ生活を保証する”という生活保持義務の考えに基づいています。
つまり、必要最低限の生活費を負担すれば良いわけではなく、元夫の収入が高い場合は、収入額に比例した金額を負担するような計算式となっているのです。
【年収別早見表】養育費の相場事例
先ほど紹介した計算方法は、一から計算すると手間も時間もかかってしまいます。
そこで、先ほどの計算方法に基づいて作成されたのが「養育費算定表」という早見表です。
養育費算定表は、子供の数、子供の年齢、夫婦それぞれの収入、自営業か会社員かという要素を組み合わせるだけで適切な養育費がすぐわかるようになっていて、実際の離婚調停の実務でもこの算定表に照らし合わせて養育費が決められています。
それでは、ここからはこの算定表に基づいた年収別の相場事例を紹介していこうと思います。養育費を決める際の目安にしてくださいね。
自営業者の場合は、年収は既に必要経費や社会保険料が控除された額なので、給与所得者の控除前の年収よりも実際の収入は多くなると考えられています。よって、元夫が自営業者の場合は養育費が1段階ほど増額すると思ってください。
(例:給与所得者の場合4~6万円→同年収の自営業者の場合6~8万円)
※ただし元妻が自営業者であっても相場に然程大きな影響はありません。
子どもが1人(0~14歳)の場合
元夫の年収/元妻の年収 | 0~125万 | 125~350万 | 350~600万 | 600万~ |
0~200万 | 0~2万 | 0~2万 | 0~2万 | 0~2万 |
200~300万 | 2~4万 | 1~2万 | 1~2万 | 1~2万 |
300~400万 | 2~4万 | 2~4万 | 1~4万 | 1~4万 |
400~500万 | 4~6万 | 2~4万 | 2~4万 | 2~4万 |
500~600万 | 4~6万 | 2~6万 | 2~4万 | 2~4万 |
600~700万 | 6~8万 | 4~6万 | 4~6万 | 2~4万 |
700~800万 | 6~8万 | 4~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
800~900万 | 8~10万 | 6~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
900~1000万 | 8~10万 | 6~8万 | 6~8万 | 4~6万 |
子どもが1人(15~19歳)の場合
元夫の年収/元妻の年収 | 0~125万 | 125~300万 | 300~600万 | 600万~ |
0~200万 | 0~4万 | 0~2万 | 0~2万 | 0~2万 |
200~300万 | 2~4万 | 2~4万 | 1~4万 | 1~4万 |
300~400万 | 4~6万 | 2~4万 | 2~4万 | 2~4万 |
400~500万 | 4~8万 | 4~6万 | 2~4万 | 2~4万 |
500~600万 | 6~8万 | 4~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
600~700万 | 8~10万 | 6~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
700~800万 | 8~12万 | 8~10万 | 6~8万 | 4~6万 |
800~900万 | 10~12万 | 8~10万 | 6~8万 | 6~8万 |
900~1000万 | 12~14万 | 10~12万 | 8~10万 | 6~8万 |
子どもが2人(2人とも0~14歳)の場合
元夫の年収/元妻の年収 | 0~125万 | 125~400万 | 400~600万 | 600万~ |
0~200万 | 0~4万 | 0~2万 | 0~2万 | 0~2万 |
200~300万 | 2~4万 | 2~4万 | 1~4万 | 1~4万 |
300~400万 | 4~6万 | 2~4万 | 2~4万 | 2~4万 |
400~500万 | 6~8万 | 4~6万 | 2~4万 | 2~4万 |
500~600万 | 6~10万 | 4~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
600~700万 | 8~12万 | 6~8万 | 4~8万 | 4~6万 |
700~800万 | 10~12万 | 8~10万 | 6~8万 | 4~8万 |
800~900万 | 10~14万 | 8~12万 | 6~10万 | 6~8万 |
900~1000万 | 12~16万 | 10~14万 | 8~10万 | 6~10万 |
子どもが2人(0~14歳と15~19歳)の場合
元夫の年収/元妻の年収 | 0~125万 | 125~350万 | 350~600万 | 600万~ |
0~200万 | 0~4万 | 0~2万 | 0~2万 | 0~2万 |
200~300万 | 2~6万 | 2~4万 | 2~4万 | 2~4万 |
300~400万 | 4~8万 | 2~6万 | 2~4万 | 2~4万 |
400~500万 | 6~8万 | 4~6万 | 4~6万 | 4~6万 |
500~600万 | 8~10万 | 6~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
600~700万 | 10~12万 | 8~10万 | 6~8万 | 6~8万 |
700~800万 | 10~14万 | 8~12万 | 6~10万 | 6~8万 |
800~900万 | 12~16万 | 10~12万 | 8~10万 | 6~10万 |
900~1000万 | 14~18万 | 12~14万 | 10~12万 | 8~10万 |
子どもが2人(2人とも15~19歳)の場合
元夫の年収/元妻の年収 | 0~125万 | 125~300万 | 300~450万 | 450万~ |
0~200万 | 0~4万 | 0~2万 | 0~2万 | 0~2万 |
200~300万 | 2~6万 | 2~4万 | 2~4万 | 2~4万 |
300~400万 | 4~8万 | 4~6万 | 2~4万 | 2~4万 |
400~500万 | 6~10万 | 4~8万 | 4~6万 | 4~6万 |
500~600万 | 8~12万 | 6~10万 | 6~8万 | 4~6万 |
600~700万 | 10~14万 | 8~12万 | 6~10万 | 6~8万 |
700~800万 | 10~12万 | 10~12万 | 8~12万 | 6~10万 |
800~900万 | 12~16万 | 12~14万 | 10~12万 | 8~10万 |
900~1000万 | 14~18万 | 12~16万 | 10~14万 | 8~12万 |
養育費は途中から増額・減額できる?⇒再婚や収入の変化があれば可能性あり
一度取り決めをしたとしても、離婚後には夫婦それぞれの状況が変わることはよく起こります。
元夫が「養育費の支払いが厳しくなってきた」と思ったり、元妻が「これだけではやっていけない」と思ったりすることもあるでしょう。
そのような場合、状況によっては養育費の増額及び減額が可能です。
離婚調停や離婚裁判などの場では、主に以下のような場合に養育費の変更が認められています。
<養育費を増額できるケース>
- 子ども15歳以上になった場合(教育費が増加するため)
- 元妻の収入が減った場合
- 元夫の収入が増えた場合
<養育費を減額または免除できるケース>
- 子どもが未成熟子でなくなった場合
- 元夫の収入が減った場合
- 元妻の収入が増えた場合
- 元夫が再婚し、扶養する家族が増えた場合
- 元妻が再婚した場合(*)
この場合、再婚相手に十分な収入があれば、元夫の養育費の支払いは免除されます。(ただし、再婚相手に十分な収入がない場合は、元夫は減額された養育費を支払うことになります)
また、養子縁組をしなかった場合、実父である元夫の扶養義務は変わりません。しかし、再婚により元妻の収入が増えたと見なされるため、元夫の養育費は減額になることが多いです。
養育費の取り決めは夫婦間の話し合いによる合意が最も優先されるので、上記以外でも合意があれば増額・減額は可能です。
逆に、もし上記のような客観的に正当な理由があるにもかかわらず相手が話し合いに応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てれば妥当な金額に変更してもらえる可能性が高いです。
養育費の支払いがされないときは?
ここまでは、養育費の金額について解説してきました。しかし、妥当な金額がわかっても、そもそも支払いを拒否されてしまえば意味がありませんよね。
実際、一度も養育費を受けたことがない”養育費なし”の人の割合は、母子家庭で55%、父子家庭で86%となっています。(参考:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果 P56 17 養育費の状況 表17-(3)-1 母子世帯の母の養育費の受給状況/表17-(3)-3 父子世帯の父の養育費の受給状況|厚生労働省)
しかし、養育費は元妻(監護親)と子どもの権利です。元妻や子どもが養育費を必要としているならば、元夫(非監護親)はきちんと支払う義務があります。
もし話し合いで支払いを拒否されたり、取り決めをしたにもかかわらず滞納されたりしたときは、以下の方法できちんと解決しましょう。
離婚時に話し合いで「養育費はなし」と言われた場合
元夫が不当に「養育費を払いたくない」と言っている場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。
調停員や裁判官が間に入って、養育費算定表に基づいた妥当な金額を定めてくれます。
ただし、元夫の収入が少ない場合は支払能力がないと判断され、養育費の支払い義務を免除されることもあります。
取り決めていた金額の養育費が支払われなくなった場合
途中で養育費を滞納されてしまった場合、まずは自分で電話やメール、手紙などで催促をしましょう。それでも支払われなければ、家庭裁判所に相談してください。
最初は履行勧告(家庭裁判所からの電話や郵便での催促)も行われますが、最終的には強制執行(財産差し押さえ)による回収も可能です。
ただし、口約束のみで「離婚調停調書」や「離婚協議公正証書」などの証明書がない場合、強制執行をするには先に調停を申し立てて公的に支払額を決めてもらわなければならず、時間と手間がかかってしまいます。
このような万が一に備え、話し合いで養育費を取り決めるときは「離婚協議公正証書」を作成しておくことをオススメします。
まとめ
養育費の相場は、母子家庭の場合は平均4~5万円ほど。
しかし、夫婦それぞれの収入や子どもの数、年齢によって適切な金額は変わります。
もし離婚後にお互いの状況が変わって養育費の増額・減額が必要な場合は、もう一度しっかりと話し合って金額を取り決めましょう。
また、養育費に関しては、まずは当事者間で話し合うことが第一ですが、それでもまとまらないときは家庭裁判所が決めることとなっています。(民法766条)
いざというときは裁判所へ調停を申し立てることで、客観的な基準で条件を決めてもらえます。
調停を申し立てるのにかかる費用は数千円(弁護士を雇わず自分で申し立てる場合)で、決して高くはありません。また、法テラスを利用すれば無料で弁護士等の専門家の意見を聞くことも出来ます。
困ったときは諦めてしまわず、一度公的な機関に頼ることも検討してくださいね。