「今後掛金を拠出する予定もないし解約(脱退)したい・・・」
「緊急にお金が必要だから解約(脱退)したい・・・」
色々な理由があると思いますが、企業型・個人型問わず確定拠出年金を解約したい!と考える人は沢山いらっしゃいます。(解約とは確定拠出年金では”脱退”といいます。)
そして、脱退制度自体は存在します。運用資金が少額で今後も新たな掛金を拠出できない方の場合は、手数料ばかりかかって税制優遇のメリットを受けられない可能性が高いため、例外として脱退(解約)を認めています。
しかし、その条件は非常に厳しいです。法改正により、2017年1月からは公的年金に加入している成人の方であれば原則として全ての方がiDeCoに加入者として加入できるようになりましたし、年金資産のポータビリティも改良されたので、更に厳しくなりました。
以下では脱退一時金を受け取るための要件とその他の注意点をまとめてみました。
なお、脱退一時金の受給要件は「企業型確定拠出年金からの脱退要件」と「個人型確定拠出年金(iDeCo)からの脱退要件」とで分けられますので、それぞれ見ていきます。
企業型確定拠出年金からの脱退一時金を受け取るための要件
企業型DCからの脱退要件は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
申請期限 | 企業型DCの加入資格の喪失日の翌日から6ヶ月未満 |
年金資産 | 15,000円以下 |
資格要件 | 企業型DCの加入者・運用指図者でないこと 個人型DCの加入者・運用指図者でないこと |
(出典:確定拠出年金法附則2条の2、確定拠出年金法施行令59条)
企業型DCからの脱退の場合、”通算拠出期間の長さ”は要件とされず、請求した日(*)の年金資産の金額が15,000円以下であれば、その他の条件を満たしている限り脱退一時金の請求が出来ます。(iDeCoの加入資格があっても請求可能)。
* 請求した日とは厳密に言うと「請求日の前月末日」の事を指しています(確定拠出年金法施行令第59条1項)。以下個人型の場合も同様。 実際には運営管理機関からの通知で確認するのが最も確実です!また、企業型DCの場合は個人型DCの場合と異なり、①2016年12月31日以前に資格を喪失したのか②2017年1月以降に資格を喪失したのか、という資格喪失日の時期的違いによって要件が変わる事もありません。
但し、その請求は資格喪失日の翌月から6ヶ月以内に行う必要があります。仮に6ヶ月を超えてしまうと国民年金基金連合会に年金資産が自動移管されてしまいますので、注意が必要です。
参考:デメリットだらけの自動移管・・・。企業型DC加入者で転職・退職した人は要注意。
なお、企業型DCからの脱退に関しては、あくまでも従前の会社を退職した場合に行う事ができる脱退手続きです。まだ会社に勤めていて実際に企業型DCに加入しているのに、解約したい!と言っても自分の意思で脱退することは出来ません。
iDeCoに移管すると解約できる場合もある!
上述したように企業型DCの資格を喪失して脱退一時金を請求するには“請求日の年金資産の額が15,000円以下”でないと出来ません。金額的に非常に小さいので、かなり厳しい要件と言わざるを得ません。
しかし、年金資産の額が25万円以内なのであればまだ可能性はあります。iDeCoに資産を移管した後であれば、脱退一時金の請求を出来るかもしれませんよ。
次に個人型の脱退要件を見ていきましょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)からの脱退一時金を受け取るための要件
個人型確定拠出年金を解約・脱退する場合には最後に確定拠出年金の資格を喪失したのが2017年よりも前(2016年以前)なのか後なのかによって変わります。
まず、法改正で新たに規定された2017年1月以降に加入者資格を喪失した場合の要件を見ていきましょう。
2017年1月以降に加入者資格を喪失した場合
2017年1月以降に加入者資格を喪失した方が脱退一時金を請求するためには、以下の全ての要件を満たす必要があります。
- 国民年金保険料を免除されていること(一部免除・学生納付特例・納付猶予も含む) *1
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと
- 掛金の通算拠出期間(*2)が3年以下または請求日の年金資産額が25万円以下であること
- 最後に企業型DCもしくはiDeCoの加入者資格を喪失した日から2年を経過していないこと
- 企業型DCからの脱退一時金を受給していないこと
(出典:確定拠出年金法附則3条、確定拠出年金法施行令60条)
以下簡単に補足していきます。
*1 国民年金保険料の免除とは
ここで言う保険料は国民年金保険料の事で、全額免除(申請免除・生活保護)のみならず、申請による一部免除・納付猶予・学生納付特例も含まれます。(参考:国民年金保険料の免除制度まとめ)
従って2017年1月以降に確定拠出年金の資格を喪失された方の場合、原則として個人事業主やフリーランス、無職等の国民年金第1号被保険者の方しか脱退一時金の請求は出来ない事になります。
公務員やサラリーマンである第2号被保険者、専業主婦などの第3号被保険者に該当する方は、解約したい!と思っても解約できません。
海外へ移住される場合:海外へ移住する場合、国民年金の被保険者とはみなされず、結果として国民年金保険料免除者にも該当しなくなります。従って脱退一時金の請求が不可となりiDeCoの運用指図者となります。(参考:確定拠出年金法Q&A No223)
*2 通算拠出期間とは
通算拠出期間とは企業型DCの加入者であった期間とiDeCoの加入者であった期間の合計です。要は掛金を拠出した期間の事であって運用指図者期間は含まれません。
また他の企業年金制度(厚生年金基金、確定拠出給付企業年金・適格退職年金)からDC制度へ資産の移管があった場合には、移管により通算された期間を含めて計算します。
そして申請期限として「企業型DCまたはiDeCoの加入者資格を喪失した日から2年以内」という要件が設定されている事をお忘れなく。基本的には運用指図者になっている前提の制度です。
2016年以前(2017年より前)に加入者資格を喪失した場合
2016年以前に加入者資格を喪失されている方は経過措置により従前の脱退基準が適用されます。(根拠条文:確定拠出年金法附則(平成二八年六月三日法律第六六号)第3条第2項)
従前の脱退基準は「2016年12月31日以前においてiDeCoへの加入資格が有ったのか、無かったのか」によって2パターンに分かれます。
まず、iDeCoへの加入資格が無かった場合の取扱いです。
iDeCoへの加入資格が無かった場合(2016年12月31日以前に資格喪失)
この場合は以下の全ての要件を満たした場合に脱退一時金を請求できます。
- iDeCoの加入資格がないこと(2016年12月31日以前に加入資格がなければOK)
- 60歳未満であること
- 企業型DCの加入者でないこと
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと
- 通算拠出期間が3年以下または請求日の年金資産額が50万円以下であること
- 最後に企業型DCもしくはiDeCoの加入者資格を喪失した日から2年を経過していないこと
- 企業型DCからの脱退一時金を受給していないこと
注:通算拠出期間の考え方は2017年以降に資格喪失した場合と同様
注目すべきは年金資産額の要件が50万円となっている所。こちらの要件はiDeCoへの加入資格がない人向けの制度なので、2017年1月以降の要件よりも若干軽くなっています。
iDeCoへの加入資格が有った場合(2016年12月31日以前に資格喪失)
この場合は以下の全ての要件を満たした場合に脱退一時金を請求できます。
- 継続個人型年金運用指図者であること
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと
- 通算拠出期間が3年以下または請求日の年金資産額が25万円以下であること
- 継続個人型年金運用指図者となった日から2年を経過していないこと
- 企業型DCからの脱退一時金を受給していないこと
注:通算拠出期間の考え方は2017年以降に資格喪失した場合と同様
継続個人型年金運用指図者とは企業型DCの加入者資格を喪失した後、企業型DC運用指図者やiDeCo加入者になることなく、iDeCoのiDeCoの運用指図者となった人で、その申し出をした日から2年を経過している人の事を指します。
まとめると、2016年12月31日以前にiDeCoへの加入資格があるにも関わらず、2年以上継続してiDeCoの運用指図者となっている人に限られます。
また、iDeCoの加入資格が「ある」ことが前提なので、2年を経過するまでに国民年金の保険料を免除されていたり、第3号被保険者期間があったりする場合は対象外となります。(ここでの加入資格は旧制度「2016年12月31日以前」のiDeCoの加入資格です。)
確定拠出年金の脱退一時金の請求方法(解約手続き)
脱退一時金の請求は「iDeCoもしくは企業型DCの運営管理機関」もしくは「国民年金基金連合会(特定運営管理機関)」に以下の書類を提出して行います。
- 脱退一時金裁定請求書
- 受給権者の印鑑証明書等の本人確認書類
請求先は個々人の現在の状況によって変わりますが、概ね以下の通りです。
対象者 | 請求先 |
---|---|
企業型DCの資格を喪失してから6ヶ月以内の方 | 企業型DC加入時の記録関連運営管理機関 |
企業型DCの資格を喪失から6ヶ月を経過している人(自動移管されている人) | 国民年金基金連合会(特定運営管理機関) 但し、この場合でも従前に加入していた企業型DCの運営管理機関に請求を行うようです。⇒詳細は特定運営管理機関にお問い合わせ下さい。) |
iDeCoに加入している方(加入者・運用指図者共に) | 現在加入しているiDeCoの記録関連運営管理機関 |
必要種類は個々人の状況によっても微妙に変わる場合があります。とにかく運営管理機関に問い合わせない事には始まらないので、受給要件等があるかも含めて問い合わせてみると良いでしょう。
確定拠出年金の脱退一時金の計算方法(いつ、いくらもらえる?解約手数料はかかるのか?)
脱退一時金を”いつ”受け取る事が出来るのか?という部分ですが、概ね請求してから3ヶ月程度で振込が完了するようです。(手続き日により変動します)。
続いて、脱退一時金はいくら貰えるのか?
計算方法を簡単に説明しておくと以下のとおりです。
脱退一時金受給額=個人別年金資産額-手数料
*参考:厳密には上記計算式に還付手数料や事業主返還金などの項目も発生します。
個人別年金資産額の確定について
個人別年金資産額は、運営管理機関による“脱退一時金の裁定決定”が完了してから運用商品の現金化が行われる事により確定します。具体的な金額は「運用資産の売却日」がいつになるかによって変わるので、詳細には運営管理機関に問い合わせてください。
いずれにせよ、定期預金等の元本確保型商品に資金を入れていれば、資産額が変動することはありません。注意が必要なのは「投資信託」に投資をしている場合です。裁定決定後の「資産売却日」は運営管理機関が決定しますので、自分のタイミングで売却する事が出来ません。
脱退一時金請求後に年金資産額が変動するのが嫌な方は、脱退一時金請求前に運用商品を定期預金にスイッチングしておくのが無難です。
メモ:企業型DCの資格を喪失した未移管者の方は退職後も以前から選択していた商品により運用が行われているはずです(参考:三井住友信託銀行チラシ-運用商品の変更部分)。なので、投資信託で運用している事になっている場合があります。
iDeCoの運用指図者の方も同様にご自分で選択した商品に投資している事になっています。
発生する脱退一時金にかかる手数料
一方、手数料として必ずかかるものに振込手数料があり432円(税込)と設定されている事が多いです。
また、自動移管されている方など国民年金基金連合会が関わる方の場合には、特定運営管理機関に払う「裁定手数料及び振込手数料」として国内送金の場合4,104円(税込)、海外送金の場合10,800円(税込)の費用が発生します。
参考:日本レコード・キーピング・ネットワーク株式会社の脱退一時金決定通知書
確定拠出年金を解約して脱退一時金を得た場合の税金!確定申告は必要か?
無事、解約手続きが完了して脱退一時金が振り込まれたとして、脱退一時金に税金はかかるのでしょうか?
この点、脱退一時金は“一時所得”に該当します。一時所得の計算式は以下の通りです(参考:No.1490?一時所得|所得税|国税庁)
一時所得の金額=総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(50万円)総収入金額は、実際に振込を受けた脱退一時金の額になります。
“収入を得るために支出した金額”の部分ですが、確定拠出年金の掛金は小規模企業共済掛金等控除として所得計算上控除を受けられる事になっているため、収入を得るために支出した金額には該当しません。(参考:所得税法施行令183条2項2号但書ホ)。つまり脱退一時金から差し引ける支出はないという事です。
但し、50万円の特別控除額がありますので、脱退一時金だけしか一時所得がない方は”所得税・住民税”ともに発生しません。税金ゼロです。(上述したように確定拠出年金の脱退一時金の最高額は50万円ですからね。)
注:他の一時所得(競馬や競輪の当選金、生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金など)が同じ年度に発生した場合には、税金が発生する事があります。詳細には税理士や税務署等にお問い合わせて下さい。
また税金を計算する過程においては、一時所得は更に1/2(半分)になります。
掛金を拠出できないので解約(脱退)したい!という場合の対策
中には奨学金や借金等の返済の優先度の方が高く、掛け金を拠出する余裕がないので脱退したい!という人もいると思います。
そのような人は、以下のいずれかの方法により対処できないか考えてみて下さい。
- ①掛金を減らす
- ②掛金の拠出を停止して運用指図者となる
iDeCoの掛金額は法律で最低月額5,000円からとなっています。現在5,000円を超えて掛金を拠出している方は最低掛金額である5,000円に設定することで幾分余裕が出てくると思います。
月額5,000円も出す余裕がない!という方は、掛金を拠出する必要がない「運用指図者」という選択肢も考えてみて下さい。
運用指図者であれば、毎月の口座維持手数料として税込64円(*)を負担すれば、iDeCo口座を維持出来ますし、資産運用も可能です。受給開始可能年齢が遅くなることもありません。
* マネックス証券やSBI証券などの2017年10月時点で手数料が最安の金融機関を選んだ場合。運用指図者の手数料等に関しては下記記事をご参照下さい。
参考:運用指図者の手数料等
脱退してしまうと、税制優遇が受けられなくなりますし、受給開始可能年齢の判定基準となる”加入者等期間”がゼロになってしまいます。可能な限り”脱退”以外の選択肢が取れないか検討してみて下さい!
確定拠出年金は脱退後に再加入も可能!注意点は?
確定拠出年金は脱退したとしても再加入が可能です。
注意点は先ほども書いたように、脱退してしまうと「これまでの加入者期間・運用指図者期間」が無かった事になります。(参考:確定拠出年金法附則第2条の2-4項、同法附則3条5項)
再加入しても60歳から老齢給付金の支給を受けられない可能性も出てきますので要注意です!
まとめ
脱退一時金に関して重要な点をまとめておくと以下の通りです。
- 脱退一時金の受給要件は2017年1月より厳しくなった!
- 企業型の場合は年金資産額1万5,000円以下の場合に脱退可能
- 個人型の場合は拠出期間3年以内または年金資産額25万円以下の場合に脱退可能(例外あり)
- 脱退一時金は請求してから受取までに3ヶ月程度はかかる
- 脱退一時金のみ受け取る場合は税金(所得税・住民税共に)は発生しない
- 脱退すると確定拠出年金には加入していなかったものとみなされる(再加入は可能)
繰り返しになりますが、確定拠出年金を解約(脱退)するという事は、様々な税制優遇を受けられる機会を放棄するという事です。各自色々な事情があると思いますが、脱退するか否か慎重に検討して下さいね。
なお、受給権者が死亡した場合に受け取る一時金は脱退一時金ではなく「死亡一時金」と言います。詳細は下記記事をご参照下さい。