毎年6月末になると国民年金の納付率に関するニュースを耳にしますね。ニュースによると、ここ数年きちんと国民年金を払っている方の割合(納付率)は65%くらいだとか。
確かに、若い方の中には「年金制度なんて信用出来ない!」「きちんと払っても年金は貰えないのでは?」と思って敢えて払っていない方もいる様なので、未納状態の方はそれなりにたくさんいるのでしょう。
実際のところはどうなのか?解明すべく、国民年金の未納率(納付率)に関して過去の推移や世代別の情報なども調べてみたので見ていきましょう。また、国民年金を未納状態にしている場合のリスクも書いているので、そちらも参考にして下さい。
平成29年度(2017年4月分〜2018年3月分)の現年度分納付率は66.3%!過去の推移や世代別の納付率は?
まずは、平成29年度の国民年金の納付率から見てみましょう。厚生労働省が毎年6月末に発表している情報によると、平成29年度の納付率(現年度分 *)は66.3%でした(参照元:平成29年度の国民年金の加入・保険料納付状況について)。
そして、この数値は6年連続伸び続けています。納付率が上がるのは良い事ですね。
国民年金の支払には2年の時効があるので、過去に遡って未納分(過年度分)を納付する事が可能です。「現納分」と言った場合は、過去分を除いた平成29年度分(2017年4月分〜2018年3月分)をその2018年4月末までに納付した方の割合を指します。
過去分も含めて納付率を計算すると、概ね10%近く納付率は上がります(過去分も含めて考えると平成29年度分の納付率は、おそらく75%程度になるはずです)。
しかし、正式な数字が出るまでに未納分の支払可能期間である2年は待たないとダメなので、この記事では「現年度分」に絞ってお話していきたいと思います。過去分も含めた納付率を知りたい方は上記参照元の厚労省のデータをチェックしてみて下さい!
国民年金の現年度分納付率の推移
次に、過去からの納付率の推移を見てみましょう。なお、グラフの縦軸は納付率(%)、横軸は年度です。
グラフを見れば分かる様に、国民年金の納付率は長期的に見ると下落傾向にあります。6年連続で納付率が上がっていると言いましたが、それでも昔と比べると大分低いですね・・・。
平成13年度から平成14年度にかけて納付率が大幅に下がっています(70.9%⇒62.8%のところ)。
これは、平成14年4月施行の国民年金法改正により免除基準が明確化され、免除されない方が増えた為、その方達が未納になるケースが非常に多かった事が原因です。
その後少し回復したのは、若年者の納付猶予制度が導入されたり(平成17年4月より)、免除勧奨を積極的に行った事が原因と考えられています。といっても、それからしばらくはまた納付率の下落が続きますけどね。
そして、平成23年に過去最低の58.6%を記録してから現在に至るまでは納付率が上がって来ていますね。これは、平成24年度から全国的な取組みとして、滞納者に対して特別催告状を発送する様になった事の成果のようです。
年代別(世代別)の納付率(現年度分)
全体としては国民年金の納付率は下落傾向にあるものの、ここ数年は上昇している事が分かりましたね。
次に平成29年度及び平成28年度の年代別(世代別)納付率を見てみましょう。
グラフからは、世代によって年金の納付率は大きく異なる事が見て取れますね。
基本的に年齢が若い方ほど納付率が悪いです。50代の方はもう納付終了のゴールが見えて来ていますし、自分が生きている間は年金が貰えなくなる事は無いだろうと考えて、積極的に納付をしているのでしょうか。
一方の若い世代が保険料を払っていないのは、経済的な理由に加えて、将来自分が年金を貰えないのではないかという不信感があるからだと考えられます。保険料を払っても将来年金を貰えないのであれば、払う意味が無いですからね・・・。
若い世代にしっかりと国民年金を払ってもらおうと思うのであれば、安心出来る年金制度の構築が必要ですね。そうすれば、若い方も積極的に納付するでしょう。
【参考】都道府県毎の年金納付率ランキング(現年度分)
ここでは、都道府県別の国民年金の納付率(平成29年度現年度分)を見てみましょう。まずは納付率トップ5は以下の通りです。
トップ5 | 都道府県 | 納付率(%) |
---|---|---|
1 | 島根 | 80.57 |
2 | 富山 | 78.68 |
3 | 新潟 | 78.61 |
4 | 石川 | 76.33 |
5 | 山形 | 76.18 |
納付率7割以上の都道府県がランクインしていますね。都会よりも地方の方が納付率は高い傾向にある様です。
次に、納付率ワースト5を見てみましょう。
ワースト5 | 都道府県 | 納付率(%) |
---|---|---|
1 | 沖縄 | 49.14 |
2 | 大阪 | 56.68 |
3 | 東京 | 62.39 |
4 | 長崎 | 62.71 |
5 | 福岡 | 63.26 |
沖縄がダントツのワースト1位ですね・・・。2〜4位は大阪・東京・埼玉と都会の地域がランクインしています。沖縄は例外ですが、基本的に国民年金の納付率は「地方>都会」という構図が成り立つのかもしれないですね。
参考までに、全都道府県のランキングも載せておきますね。表示順は北⇒南の順(北海道から始まって沖縄で終わり)です。ちなみにタイトルをクリックすると順番を入れ替えることが出来ます。
都道府県 | 納付率(%) | 順位 |
---|---|---|
全国 | 66.34 | ー |
北海道 | 66.64 | 32 |
青森 | 69 | 28 |
岩手 | 75.08 | 8 |
宮城 | 67.28 | 31 |
秋田 | 75.35 | 7 |
山形 | 76.18 | 5 |
福島 | 68.31 | 30 |
茨城 | 64.57 | 39 |
栃木 | 64.51 | 40 |
群馬 | 69.28 | 27 |
埼玉 | 63.94 | 42 |
千葉 | 64.44 | 41 |
東京 | 62.39 | 45 |
神奈川 | 65.55 | 35 |
新潟 | 78.61 | 3 |
富山 | 78.68 | 2 |
石川 | 76.33 | 4 |
福井 | 75.67 | 6 |
山梨 | 70.28 | 22 |
長野 | 74.84 | 9 |
岐阜 | 74.29 | 10 |
静岡 | 71.56 | 19 |
愛知 | 69.73 | 25 |
三重 | 72.24 | 16 |
滋賀 | 72.33 | 15 |
京都 | 68.57 | 29 |
大阪 | 56.68 | 46 |
兵庫 | 65.68 | 34 |
奈良 | 70.93 | 21 |
和歌山 | 73.54 | 12 |
鳥取 | 73.89 | 11 |
島根 | 80.57 | 1 |
岡山 | 70 | 24 |
広島 | 71.46 | 20 |
山口 | 72.72 | 14 |
徳島 | 70.02 | 23 |
香川 | 72.83 | 13 |
愛媛 | 72.2 | 17 |
高知 | 71.71 | 18 |
福岡 | 63.26 | 43 |
佐賀 | 69.39 | 26 |
長崎 | 62.71 | 44 |
熊本 | 66.03 | 33 |
大分 | 64.63 | 38 |
宮崎 | 65.49 | 36 |
鹿児島 | 64.73 | 37 |
沖縄 | 49.14 | 47 |
自分の住んでいる都道府県はどうですか?もし納付率が低くて、自身も納付していないのであれば納付率のアップに貢献してみてはどうでしょう。
【注意】厚生労働省の発表している国民年金の納付率(未納率)にはカラクリあり!免除者・猶予者は納付率の計算方法上除外されている!
上述の通り、国民年金の納付率は平成29年度で66.3%です。逆にいうと、全体の約3割強が納付出来ていない(未納率:33.7%)という意味ですよね。
しかし、この納付率(未納率)には少し微妙なカラクリが有りまして、実際の納付率はもっと低いのです。。。
一体どういう事なのかというと、実は「免除者・猶予者」に関しては納付率の計算方法上除外されてしまっているんですね。
納付率の計算方法がこちら。
上記計算式の納付月数は”実際に当年度中に納付された月数(納付人数×月数ってこと)”です。これは良いと思います。
問題は納付対象月数です。納付対象月数は当年度に保険料として納付すべき月数を指しているのですが、ここには「法定免除者・申請全額免除者・学生納付特例者・納付猶予者」分の月数は含まれていないのです。
要は何が言いたいのかと言うと、この計算式で納付率を計算している限り、[marker]国民年金の納付率は表面上上がってしまう[/marker]のです。
もちろん条件を満たしている限りにおいて、免除や納付猶予を受けることは国民の正当な権利です。なので、保険料を払う余裕がない人は免除等を受ければ良いと思います。
しかし、免除者や納付猶予者の方も国民年金の加入者なわけですから、本来的には納付義務があります。言い換えれば、免除者や猶予者が存在するということは“本来入ってくるはずの年金保険料が入ってこない”という事です。
そして、本来入ってくるはずの保険料が入ってこないのであれば、入ってこなかった分の保険料を[marker]誰かが負担[/marker](*)しないと辻褄は合わなくなりますよね。理論上。
ちなみに、入ってこなかった分の保険料を誰が負担しているのかと言うと、主として「第2号被保険者」の方々です。要はサラリーマンですね。国民年金の赤字は厚生年金加入者によって補填されているのです。
この辺りを詳しく書くと長くなってしまうので、別記事で書く予定です。詳しくはそちらを読んで下さい。
参考:国民年金は赤字!誰が補填しているのかと言うとサラリーマンの方々です【記事未了】
それなのに、これらの方々を計算上除外して「これが納付率ですー!」と国が発表するのは正しいことなのでしょうか?
筆者の私見ですが、本来的には免除されている方々も含めて計算した結果を大々的に発表するのが国がやるべき事なのでは?と思います。
では、免除者や猶予者等も含めた実質的な納付率はどれくらいなのでしょうか。以下で見てみましょう。
注:以下の計算は公表資料から独自に行っているもので、公式な数値ではありません。ネットで検索すると平成28年度の実質納付率は40.5%と出て来ますが、そちらとも多少の差が出ます。
年度 | 公表されている納付率(%) | 実質の納付率(%) |
---|---|---|
平成29年度 | 66.3 | 41.0 |
平成28年度 | 65 | 41.1 |
平成27年度 | 63.4 | 41.4 |
平成26年度 | 63.1 | 41.2 |
平成25年度 | 60.9 | 40.5 |
・根拠数値は「平成29年度の国民年金の加入・保険料納付状況について」記載のものを使用。
・全額免除者数は万単位の数値を使用
・納付月数は万単位の数値を使用
・納付月数は現年度分納付月数を使用
例:平成29年度は、免除者数574万人・納付月数7,406万月・納付対象月数11,164万月なので、7,406万月÷(11,164万月+574万人×12月)×100=41.025(41.0%)
公表されている納付率と比べると、20%程度下がりましたね。実質的には4割程度の方しか国民年金を納付していない、という事です。
さらに、少し前の話ですが年金問題に積極的に取り組んでいる代議士の河野太郎氏が、厚生労働省から入手した資料をもとに世代別の年金納付率の資料を作成した事がテレビで話題になりました。
それによると、平成25年度の年齢層毎の納付率は以下の通りだそうです(参照元の記事は執筆時点では削除されていたので、下記数値は参考程度にして下さい)。
年齢層 | 納付率(%) |
---|---|
20〜24歳 | 21.4 |
25〜29歳 | 31.7 |
30〜34歳 | 38.2 |
35〜39歳 | 42.1 |
40〜44歳 | 43 |
45〜49歳 | 42.9 |
50〜54歳 | 47.5 |
55〜59歳 | 53.7 |
合計 | 40.2 |
20代の納付率は他の年代と比べると、かなり低い事が分かりますね。学生には学生納付特例制度が有るので、20代前半の納付率が低くなるのは仕方無いですが、それにしても低過ぎですよね・・・。
公的年金制度全体で見れば未納者は少なくなる!!
国民年金の納付率が66.3%といった場合、この割合は国民年金第1号被保険者(自営業者・学生・無職等)に限った話です。
日本での公的年金の加入者状況を見てみると、平成29年度では以下の通りとなっています(参照元:厚生労働省「平成29年度の国民年金の加入・保険料納付状況について内の【資料】公的年金制度全体の状況・国民年金保険料収納対策について(概要)より」)。
種別 | 人数(万人) |
---|---|
国民年金第1号被保険者等 | 1,505 (内、保険料納付者:774 免除者:345 学特・猶予者:229 未納者:157) |
国民年金第2号被保険者等 | 4,356 |
国民年金第3号被保険者 | 870 |
未加入者 | 9(下記合計には含めず) |
合計 | 6,731 |
数字だけ見ても分かりにくいので、円グラフにしてみましょう。
このグラフをみてまず分かる点、それは、公的年金制度の加入者は全体の約80%(*)が、厚生年金や共済組合に加入している「国民年金第2号被保険者等(要はお勤めの方)」とその配偶者である「国民年金第3号被保険者」である、という事です。
従って、第2号・第3号被保険者については、未納者としてカウントされる事が基本的にありません。
とすると、国民年金が未納になる可能性を秘めているのは、自営業者等である国民年金第1号被保険者ですね。彼らは自分で保険料を納付しないといけないので、どうしても忘れたり資金繰りの関係で後回しになったりしがちです。
但し、その割合を見てみて下さい。公的年金制度全体で見れば、未納者は全体の2%強ですし免除者を含めて考えても10%程度です。
たまに「年金の未納者が35%もいるから年金制度は崩壊寸前だ!」と言われる事が有りますが、この理屈は少し言い過ぎかなと思います。あくまでもそれは「国民年金の第1号被保険者」に限った話ですからね。
もちろん、年金制度自体がうまくいっているとは言えません。先ほども言ったように、国民年金の赤字部分は厚生年金の被保険者の方が負担しているので(しかも第3号被保険者部分も負担している!)、制度としては破綻してると言って正解でしょう。
国民年金が未納だと損することが多いので最低でも免除制度は活用しよう!
国民年金の未納率が約3割で、免除者まで含めると実質約6割が未納という事が分かりました。彼らは、お金が無かったり将来への年金制度への不安などから未納状態になっていると考えられますが、国民年金が未納になるとどうなるのでしょうか?
まず、前提として国民年金の納付は義務なので、納付しない事は法律違反です。従って、未納になる事と免除を受ける事とは話が全然違います。
免除を受けているのであれば、その期間は年金受給資格の期間に入りますし、老齢基礎年金の半分は受け取る事が出来ます(全額免除の場合 *)。
しかし、未納の期間については、将来年金(老齢基礎年金)を貰う際の受給資格の計算期間に含まれないですし、将来の年金額も増えません。また、未納だと老後に年金(老齢基礎年金)が貰えなくなるだけでなく、障害年金や遺族年金も貰えなくなってしまいます。
事故などに遭って働けなくなった際に年金が未納だと、かなり厳しい状態に追いやられてしまいますよ。年金の未納状態が損な理由は下記記事で詳しく書いているので、そちらを参考にして下さい。
経済的な理由で払う余裕が無いという方は、未納ではなく必ず「免除」を選ぶようにして下さい。
また、払える余裕があるのに「自分が払った以上の金額が貰えるか分からないのに払う意味あんの!?」となっている方も改めて考えてみてくださいね。
年金は何も老齢年金だけではありません。先ほども書きましたが、障害年金や遺族年金といった万が一の際の、残された家族の為の金銭的な保障機能も持っています。もし、払わないという決断をするにしても、その辺りまで考慮して決断して下さい。
まとめ
記事が長くなってしまったので、この記事のポイントをまとめておきます。
- 平成29年度の国民年金納付率(現年分)は66.3%!
- 免除者等も含めると実際に国民年金を払っている人は4割程度しかいない!
- 公的年金制度全体で見れば未納者は10%程度に落ち着く(但し、3号被保険者は除く)
- そもそも国民年金の未納は損なので出来る限り免除制度を活用する
- 年金保険料を払うか払わないかは保障機能などを含めて総合的に判断すべき!
なお、今の年金制度は高齢者に手厚く、若年層に厳しい制度であることは間違いありません。年金の納付率をあげるためにも、政府にはなんとか対策をうってもらいたいですね。