公的年金の運営業務を行っている日本年金機構。
まさに年金事業の要とも言えるこの組織ですが、よく不正問題や職員の問題行動が取り上げられ、Twitter等で大バッシングを受けていますよね……。
「国民には年金制度への大きな不信感」があるので、ちょっとした問題でも大きく取り上げられやすい傾向があるのは間違いなく、その光景は「少し気の毒だな・・・」と思ってしまうほどです。
しかし、年金機構が公的機関であることに間違いはなく、不正事例が起きないように我々国民が目を光らせておくこと自体は非常に大事だと思います。
そこで今回の記事では、旧社保庁時代から現在の日本年金機構にかけてどのような不祥事・問題が発生したのかを時系列でまとめていきますね。
【年表】日本年金機構の主な不祥事一覧
はじめに、年金機構(及びその前身である社会保険庁)で起こった近年の主な不祥事について下表で確認しただきたいと思います。
年 | 不祥事 | 内容 |
---|---|---|
社会保険庁時代の不祥事 | ||
2004年 | 公的年金流用 ①グリーンピア問題 ②事務費の流用 | ①年金財源を使って建設された大規模な保養地「グリーンピア」の不採算が問題となった。(詳しくは後述) ②国民の納めた保険料が「社保庁長官の香典代・車の購入費」などに使われた問題。 |
2004年 | 職員の不祥事 ①個人情報業務外閲覧等 ②職員の接待問題 | ①数百名の職員が年金に関する個人情報の業務外閲覧等を行っていた問題。(詳しくは後述) ②機器調達をめぐり、職員が収賄容疑で逮捕。 |
2006年 | 国民年金不正免除事件 | 22万件にものぼる国民年金の不正免除が発覚した問題。 |
2007年 | 年金記録問題 | 年金のずさんな記録管理が大きく取り上げられた問題。(詳しくは後述) |
2008年 | ヤミ専従問題 | ヤミ専従(勤務時間中にも関わらず、労働組合の活動に専念すること)をした職員に対してのべ9億円もの給与が支払われていた問題。 |
日本年金機構の不祥事 | ||
2010年 | 官製談合 | 社会保険庁のOBが、業務の入札をめぐり内部情報を漏洩した事件。(参照元:年金機構職員逮捕 入札情報漏洩の疑い|日本経済新聞社) |
2013年 | 時効特例給付未払い | 年金記録の不備が原因で支払われなかった年金を支払う「時効特例給付」で約8.5億円の未払いがあった。(参照元:年金時効特例給付未払いで機構職員処分|産経新聞) |
2015年 | ①年金管理システムサイバー攻撃問題 | ①年金機構のパソコンに不正アクセスがあり、125万件もの個人情報が流出した問題。(詳しくは後述) |
②不動産の無駄遣い | ②元々国有財産である機構の宿舎等(簿価15億円分)が、有効活用されていないことが判明した問題。(参照元:年金機構の宿舎7棟170戸、3年以上空き家 検査院調べ |日本経済新聞) |
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2017年 | ①年金事務所からの個人情報持ち出し | ①勤務先の年金事務所から8年にわたり約400人分の個人情報を持ち出し、見返りとして現金数十万を受領していた職員が逮捕された事件。(参照元:元日本年金機構職員の逮捕について|日本年金機構) |
②遺族年金の過払い | 遺族年金の受給資格を失ったものに対しても年金が支払われており、18億円分もの過払いが発覚。(参照元:遺族年金、18億円過払い 資格失った1千人に|朝日新聞) |
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③年金支給漏れ | ③一定の条件を満たす配偶者に支払われる「振替加算」で598億円もの支給漏れが発覚。(参照元:配偶者の年金支給漏れ598億円 10万人分、過去最大|朝日新聞) |
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2018年 | 委託先の外部業者による違反行為 | 機構から受託して年金のデータ入力業務を行っていた民間企業が、当該業務を中国の企業に再委託した問題。(詳しくは後述) |
2019年 | ①「リアルガチでやばいかも」で炎上 | 委託費3,000万円を使って作った新社会人向けページ及びTweetで「(年金受給額が)ガチヤバイ!?リアルガチでやばいかも!?」という軽い文言を使用したことにより若年世代の感情を煽り炎上(詳しくは後述) |
②Twitterでの不適切投稿 | 世田谷年金事務所の所長が、Twitterで差別的な発言を繰り返していたことが判明し、解任された問題。(参照元:「ヘイトスピーチ」で更迭 年金機構・世田谷事務所長|ハフポスト) |
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③個人情報紛失 | 年金機構の東京広域事務センターが、国民年金の未納者のデータが入ったDVDを紛失していた問題。(参照元:年金機構が個人情報紛失 未納者データのDVD|産経新聞) |
こうしてみると、話題になったトラブル・不祥事だけでも結構な数がありますね・・・。
以下のセクションでは、年表中の不祥事のなかでも特に事件性が大きかったものやショッキングだったものについて詳しく解説していきますよ。
社会保険庁時代の主な事件・不祥事
2004年:グリーンピア問題
グリーンピア(大規模年金保養基地)とは、被保険者や受給権者等の福利に資することを目的とした余暇施設として、年金福祉事業団によって設置された大規模保養施設のことを言います。
施設の建設費用や運営経費には国民の年金積立金が使われており、実質的には赤字経営になっていたことから「公的年金資金流用問題」として2004年に大きく問題となりました。
結果、2005年に民間への売却が完了するまでに全国13箇所にあったグリーンピア事業合計で3,682億円の損失を出しました。(参考:年金の損失3682億円/グリーンピアの処分終了 | 四国新聞社)。
また、金銭的な赤字の問題だけでなく、
- 施設の設置場所13箇所中8箇所が歴代厚生大臣の地元であったこと
- 関連団体に数多くの厚生省役員が天下りしていること
など、政府の人間が、自分たちの私利私欲のために国民の年金保険料を無駄遣いしていることが国民感情を刺激し、年金不信を大きく高める一つの大きな出来事となっています。
参考:年金福祉事業団の事業運営及び実施について | 平成11年度決算検査報告 | 会計検査院
【注意】グリーンピア問題で年金財政が苦しくなったわけではないことは知っておこう!
たまに、グリーンピア問題を取り上げて公的年金の無駄使いのせいで年金財政が苦しくなった!と言われる人がいますが、それは違いますよ。
確かにグリーンピア事業単体で見れば3,682億円の損失が出ており、これは非常に大きな金額です。甘い蜜をすった官僚や政治家の責任は追求されるべきです。
しかしながら、これが年金財政に影響を大きな影響を与えるか?というと全然与えません。
グリーンピアの建設資金等には、われわれ国民の年金積立金が使用されましたが、その年金積立金は平成30年度末時点で時価ベースで約166兆円あります。(参考:平成30年度「厚生年金・国民年金の収支決算の概要」 | 厚生労働省)
166兆円からすると3,682億円はたったの0.22%です。
加えて言えば、2017年単年度の年金給付費の金額は約54兆円ですが(参考:厚労省年金特別会計より)、基本的に年金給付費に占める年金積立金の割合は10%程度です(*)。
大筋の年金財政に影響を与えないお金が3,682億円無駄使いされたからと言って、それが年金財政に大きな影響を及ぼすわけでは無いのです。この事は知っておいて下さいね。
この辺りの内容については下記記事で詳しく書く予定ですので、そちらも参考にしてください。
参考:年金福祉事業団や厚生年金事業振興団の無駄使いは年金財政に影響を与えたのか?【記事未了】
2004年:個人情報漏洩問題
年金の個人情報流出事件としては、2015年に起きた「年金管理システムサイバー攻撃」ばかりが取り上げられがちですが、実は社保庁時代にも大きな事件がありました。
ことの発端は2004年。当時国民年金の広告塔になっていた女優さんに保険料の未納が明らかになったことから一連の騒動は始まります。
彼女の未納問題を引き金に国民の不満が募る中、小泉内閣(当時)の閣僚であった福田康夫氏や竹中平蔵氏らも保険料を納めていないことが発覚。
これを好機と見た野党側は未納問題を徹底的に糾弾していましたが、なんと今度は野党議員の中にも未納者がいると判明します。
政権に対して特に強い批判を行っていた菅直人民主党党首(当時)も、自身の未納が露見し責任をとるかたちで代表を辞任することとなりました。(参考:私の辞任について|民主党文書)
「国民に年金保険料納付促進を呼びかける側の人間が実は未納だった……」というなんとも信じがたいニュースですが、ここで疑問が生じます。
なぜ短期間でここまで多くの有名人や政治家の未納が明らかになったのでしょうか_?
この問題について社会保険庁が調査を行ったところ、多数の職員が業務目的外で年金の納付状況を閲覧し、一部は情報をマスコミにリークしていたことが判明します。
「おもしろ半分で他人の個人情報を盗み見て、外部に流すとはどういうことだ」
「今回は公人や芸能人ばかりだったが、一般国民に対しても同じことができるのではないか」
国民の怒りの矛先は今度は社保庁へと向けられます。
最終的に業務外閲覧等に関わった職員973名を処分し、一応この事件は幕を閉じましたが、政治家や社会保険庁に対する強い不信感を残す結果となりました。
2007年:年金記録問題(宙に浮いた年金・消えた年金・消された年金)
社会保険庁時代で最も大きな年金関連の不祥事といえば、やはり「年金記録問題」です。
2007年の流行語としても知られる「消えた年金」が突出して有名ですが、実は年金記録問題は以下の3つの内容から構成されています。
- 宙に浮いた年金:持ち主不明の年金記録が約5100万件も見つかった問題
- 消えた年金:保険料を納付した旨の記録が社保庁になかった問題
- 消された年金:職員によって厚生年金記録が改ざんされた問題
年金記録の管理体制のずさんさには日本中から非難の声が寄せられ、社会保険庁、そして政権を担っていた自民党に対する信頼は失墜します。
実際、第1次安倍内閣(当時)時に行われた参院選では自民党が極端に議席を落とし、民主党に第一党を譲るという事態に陥りました。
当時やり玉にあげられた「政治とカネ」も自民党敗因の1つですが、それ以上に「年金問題」が大きかったと言われています。それほどまでに、国民は年金に対し失望を抱いたということですね。(参考:自民党歴史的大敗と有権者の選択|NHK P.72)
事件の経緯や現状について気になる方は、「消えた年金とはなんだったのか?今こそ知っておきたい事件の全貌と現状【記事未了】」を参考にしてくださいね。
年金機構の主な事件・不祥事
社会保険庁は、年金記録問題を筆頭に様々な問題や不祥事が露呈したため解体され、2010年から新たに日本年金機構が設立されました。
という理念を掲げて設立された年金機構ですが、大小様々なトラブルが発生しています。
2015年:125万人分の年金記録が流出!?
年金機構の不祥事として、多くの方が思い浮かべるのは「年金管理システムのサイバー攻撃問題」ではないでしょうか?
標的攻撃型メールを複数名の職員が開いてしまい、結果的に計125万件もの個人情報が流出したという極めて大きな事件ですが、厚労省は事件が拡大した理由について以下の点を指摘しています。
- 個人情報が共有フォルダに置かれていた
- 標的攻撃型を想定したシステム設計をしていなかった
- インシデント(事件)の対応体制が確立されていなかった
- ガバナンスの欠如
- 個人情報保護に対する認識の甘さ
組織の管理体制・個人情報保護とかって社保庁時代にも散々言われてきたことですからね・・・。
呆れた人も多かったのではないでしょうか。
2018年:外部業者による違反行為
こちらは、年金機構が委託した外部企業の違反行為です。(といいながら、年金機構の責任もかなり大きい事案なんですがね……)
公的年金の運営事務を担っている年金機構ですが、年金に関する業務は非常に膨大なため、業務の一部を外部委託することが認められています。(参考:日本年金機構法 第31条)
委託先企業は基本的に競争入札(ようするに一番安くやってくれる会社に仕事をまかせるということです)で選ばれており、今回の事件を引き起こした株式会社SAY企画も「1300万人分のデータ入力」を競争入札で勝ち取りました。
しかし、この会社ですが売上高はたったの数億円。当然1300万人分のデータ入力などできるはずもなく、納期最優先で雑に業務を行っていきます。(これにより10万人分もの年金が過小支給されることに・・・)
それでも間に合わなくなったSAY企画は契約で禁じられていた業務の再委託を無断で行います。そして、あろうことか委託先はなんと中国の企業。
幸いなことに、再委託された約500万人分の情報漏洩の可能性は低いとの結論にいたりましたが、一歩間違えれば数百万人分の個人情報が国外に流出していた恐れがあった事案です。(参考:(株)SAY企画に係る再委託先調査について|厚生労働省)
普通に、企業規模等を考えれば無理な契約だとすぐに分かりそうな気がしますよね・・・。
請け負った企業も当然悪いですが、業務を委託した機構側にも問題はおおありですよね。
コストカットを追求する余り正確性や公正さが欠落してしまっては、元も子もありません。
「国民の年金や個人情報」と「安さ」では、天秤にかけるまでもなく前者が大切です。当たり前のことをキッチリと出来る組織になって欲しいですね。
参考;年金データ入力ミス 重なる不祥事の根を絶て|毎日新聞
参考:日本年金機構における業務委託のあり方等に関する調査委員会報告書|日本年金機構 P.5
2019年:「リアルガチでやばいかも」という文言で炎上
こちらは、新社会人向けに「ねんきんネット」の利用を促すページを公開したときの日本年金機構のTweetです。
実際、ねんきんネットは非常に便利ですから多くの新社会人の方に使ってほしいですが、このあおり方は異常ですよね。
年金の世代間格差の記事でも紹介したように、いまの現役世代はいまの高齢世代と比べると遥かに厳しい負担を強いられています。格差としては2倍は当たり前で世代によっては3倍以上になることも。
これだけ年金不信が叫ばれている世の中で、このTweetはあまりにも国民感情への配慮が足らなさすぎました。炎上するのも当然でしょう。
しかも、この広告作成の委託費として全体で3,000万円も使われていたというのですから驚きです。
ちなみに削除されたWEBページはarchive.todayの「新社会人のみなさまへ 受け取る年金少なくなってない!? | 日本年金機構」からご覧いただけます。
まとめ:組織及び個双方の意識が変わらない限りいつまでも年金機構の不祥事は続く
社会保険庁時代の不祥事について厚生労働省は
- 組織のガバナンスの欠如
- 職員の使命感・責任感の欠如
- 「国民目線」からはずれた役所文化
が原因だと反省の弁をのべています。(参考;旧社会保険庁等をめぐる問題点|厚生労働省 P.8~9)
しかし、既に確認したとおり年金機構へと組織が変わってからも不祥事は続発し、社保庁時代の反省が充分に活かされているとは思えませんね。
近年起きたサイバー攻撃や外部企業への委託問題なども、職員の怠慢や管理体制の不完全さの現れでしょう。
公的年金は国民が安心して暮らすための大切な制度です。
この基本的なことを認識し、1人1人の職員そして組織全体の意識を改善していって欲しいなと思いますね。