年金には任意で加入できる制度がいくつかありますが、なかなか違いがわかりにくいですよね。特に名前がよく似ているので混乱しやすいと思います。
今回は、70歳以上の人でも一定の条件を満たせば厚生年金に加入できる「高齢任意加入被保険者」について解説します。
勤め先が適用事業所の場合と、適用事業所以外の事業所の場合は条件等が異なりますので、しっかりと違いを抑えておきましょう。
混同しやすい任意単独被保険者との違いもわかりやすくまとめているのでぜひ参考にしてくださいね。
厚生年金の高齢任意加入被保険者とは?
高齢任意加入被保険者とは、簡単にまとめると「老齢年金の受給権がないので任意で厚生年金に加入する、70歳以上の会社員(または公務員)」のことです。
本来、厚生年金は70歳(70歳の誕生日の前日で資格喪失)までしか加入できませんが、老齢年金の受給権がない場合に限り、70歳以上でも任意で厚生年金に加入できるのです。
現在、老齢年金の受給資格を満たすには、「保険料納付済み期間・保険料免除期間・合算対象期間の合計(=保険料未納扱い以外の期間)が10年以上(*)あること」という条件を満たす必要があります。
もし保険料の納付済み期間等が10年に満たない場合、老齢年金は受給できず、それまでに支払った保険料は掛け捨てになってしまいます。これでは支払った保険料がもったいないですし、老後資金も不安になってしまいますよね。
しかし、高齢任意加入被保険者になれば、70歳以降も保険料を納付して受給資格期間を満たすことができます。
国民年金の「任意加入被保険者」の厚生年金バージョンと考えるとわかりやすいでしょう。
[getpost id=”8013″ title=”参考” target=”_blank”]高齢任意加入被保険者の資格取得・喪失条件、保険料の納付方法(誰が負担するか)
ここからは、「適用事業所に使用される場合」「適用事業所以外の事業所に使用される場合」のケース別に、高齢任意加入被保険者について詳しく解説していこうと思います。
資格の取得・喪失の条件や、保険料の納付についてはそれぞれで条件が異なるので、違いを整理しておきましょう。
適用事業所に使用される場合
資格取得条件
適用事業所に使用される人が高齢任意加入被保険者になるための条件は2つです。(参考:厚生年金保険法 附則第4条の3-1)
- 70歳以上であって、老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、その他老齢または退職が理由の年金給付)の受給権がないこと
- 厚生年金の被保険者の適用除外の要件(厚生年金保険法 第12条)に該当しない(=70歳未満であれば厚生年金に入れる条件で働いている)こと
次のセクションで解説する「適用事業所以外の事業所に使用される場合」と違い、事業主の同意は必要がないのが特徴です。
資格喪失条件
適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者の資格を喪失するのは、以下のような場合です。
- 自ら資格喪失の申し出をしてそれが受理されたとき
- 退職したとき
- 厚生年金の被保険者の適用除外の要件(厚生年金保険法 第12条)に該当したとき
- 事業所が適用事業所でなくなったとき
- 老齢年金の受給権を得たとき
- 保険料を滞納し、督促状の指定期限までに納付しないとき(保険料折半についての事業主の同意がある場合(後述)を除く)
(参考元:厚生年金保険法 附則第4条の3-4~6)
保険料の納付⇒原則として加入者本人が全額負担
適用事業所に使用されている場合、保険料は高齢任意加入被保険者本人が全額負担し、自分で納付するのが基本です。
ただし、事業主が同意してくれた場合に限り、通常の厚生年金の被保険者と同様に事業主が保険料の半額を負担し、納付の義務を負ってくれます。
なお、この事業主の保険料に関する同意は、将来に向かって撤回することができますが、撤回するには高齢任意加入被保険者本人の同意が必要となります。
参考元:高齢任意加入被保険者の保険料はどのように納めるのですか。|日本年金機構
適用事業所以外の事業所に使用される場合
資格取得条件
適用事業所以外の事業所に使用される人が高齢任意加入被保険者になるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 70歳以上であって、老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、その他老齢または退職が理由の年金給付)の受給権がないこと
- 厚生年金の被保険者の適用除外の要件(厚生年金保険法 第12条)に該当しない(=70歳未満であれば厚生年金に入れる条件で働いている)こと
- 使用される事業所の事業主の同意があること
参考:厚生年金保険法 附則第4条の5-1
適用事業所で使用される場合と異なるのは、被保険者となるには事業主の同意がいる点です。
後述しますが、適用事業所以外の事業所で使用される人が高齢任意加入被保険者となる場合、常に保険料は事業主が折半し、納付の義務を負わなければなりません。よって、必ず事業主の同意が必要となります。
資格喪失条件
適用事業所以外の事業所で使用される高齢任意加入被保険者の資格を喪失するのは、以下のような場合です。
- 自ら資格喪失の申し出をしてそれが受理されたとき
- 退職したとき
- 厚生年金の被保険者の適用除外の要件(厚生年金保険法 第12条)に該当したとき
- 老齢年金の受給権を得たとき
(厚生年金保険法 附則第4条の3-4~6)
保険料の納付⇒必ず折半になる
「資格取得条件」のセクションでも触れましたが、事業主は必ず保険料を被保険者と折半し、納付義務を負うことになります。
つまり、たとえ従業員が「自分で全額負担するからなんとか加入したい」と思っても、事業主は保険料を折半する義務が発生するので、事業主が負担を嫌って同意しなければ高齢任意加入被保険者になれません。
参考元:高齢任意加入被保険者の保険料はどのように納めるのですか。|日本年金機構
【参考】勤め先の事業所の種類が途中で変わった場合は?
これまでで見てきたように、適用事業所とそれ以外の事業所では、資格の取得条件などが異なってきます。それでは、もし勤務している事業所の種類が途中で変わったら、被保険者の資格はどうなるのでしょうか?
日本年金機構に電話で確認したところ、以下のようになるとのことでした。
①適用事業所→適用事業所以外の事業所に変わった場合
法人が解散して個人の事業所になった場合など、適用事業所でなくなった場合は被保険者の資格は自動的に喪失します。(資格喪失の条件を参照)
再び高齢任意加入被保険者となるには、事業主の同意を得た上で改めて届け出をする必要があります。
適用事業所だったときに事業主の同意なしで加入していた人は、もし事業主の同意を得られなければ加入できなくなってしまうので注意しましょう。
②適用事業所以外の事業所→適用事業所に変わった場合
先程の例とは逆に、適用事業所に変わった場合、被保険者の資格は継続します。
なぜなら、事業主は既に適用事業所でなかったときから労使折半や納付義務に同意してくれていたので、適用事業所に変わったからと言って同意を撤回することは考えにくいからです。
よって、この場合は特段の手続きは必要ありません。
高齢任意加入制度の被保険者期間の取り扱い
高齢任意加入被保険者となった場合、保険料を納付した期間の取り扱いは60歳未満の厚生年金の被保険者とは異なります。
国民年金においては合算対象期間(カラ期間)の扱いとなるので、老齢基礎年金の受給資格期間には算入されますが、年金額には反映されません。(参考:国民年金法 附則(昭和六〇年五月一日法律第三四号)8条4項)
そのかわり、老齢基礎年金の年金額に反映されなかった分は、老齢厚生年金として支給されます。この仕組みを経過的加算と言います。
経過的加算について詳しく知りたい人は「経過的加算とは?仕組みや計算方法をわかりやすく解説!【記事未了】」の記事を参照して下さいね。
任意単独被保険者との違いに注意!
任意単独被保険者とは、厚生年金の適用事業所以外の事業所に勤める従業員で、任意で厚生年金の被保険者となった人を指します。
高齢任意加入被保険者が、年齢によって厚生年金に入れない人が対象であるのに対し、任意単独被保険者は事業所が適用事業所でないことによって厚生年金に入れない人が対象となるということになります。
高齢任意加入被保険者と任意単独被保険者は混同しやすいので、違いを表でまとめておきますのでご確認くださいね。
高齢任意加入被保険者 | 任意単独被保険者 | |
---|---|---|
対象者 | 老齢年金の受給権がない人 | 適用事業所以外の事業所に勤めていて厚生年金の被保険者とならない人 |
年齢要件 | 70歳以上 | 70歳未満 |
事業主の同意 | 適用事業所:不要 適用事業所以外の事業所:必要 | 必要 |
保険料の納付 | 適用事業所:本人が全額負担&納付(事業主の同意があれば、事業主が折半&納付) 適用事業所以外の事業所:事業主が折半&納付 | 事業主が折半&納付 |
まとめ
高齢任意加入被保険者は、適用事業所に使用される場合と適用事業所以外に使用される場合とで条件や保険料の納付方法が異なります。
最後にもう一度、両者の違いを簡単にまとめておきますね。
<適用事業所に使用される場合>
- 加入するために事業主の同意は不要
- 保険料は基本的に本人が全額負担し、納付する
- 事業主の同意がある場合のみ、保険料は事業主と本人で折半し、保険料は事業主が代わって納付する
<適用事業所以外の事業所に使用される場合>
- 加入するためには必ず事業主の同意が必要
- 保険料は必ず事業主と本人で折半し、保険料は事業主が代わって納付する
高齢任意加入制度は、老後”無年金”になりそうな人たちにはとてもありがたい制度です。
しかし、2017年(平成29年)より受給資格期間が10年に短縮されたので、この制度を利用する人はかなり少数になっていくでしょうね。