平成29年1月以降、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象者が拡大され、加入者数がすごい勢いで増えています。
制度が開始した2002年から2016年3月までの加入者が約26万人だったのに対し、2017年3月時点では約43万人になっており、さらに現在も増加中です(関連記事:確定拠出年金(個人型・企業型)の加入者数の推移と加入率【2017】)。
確定拠出年金で拠出した掛金は全額所得控除(小規模企業共済掛金等控除)の対象ですし、将来年金を受け取る際にも公的年金等としての扱いを受けるので、効率的に老後の資金を集める事が出来る、という点が人気の一因ですね。
しかし、確定拠出年金で受け取る事の出来る給付金は、老後の年金(老齢給付金)だけでは有りません。実は、以下の様に全部で4種類の給付が有るのです。
- 老齢給付金
- 障害給付金
- 死亡一時金
- 脱退一時金
ここでは、確定拠出年金で貰う事の出来る4種類の給付金について、それぞれの内容を見ていきましょう。
原則60歳になったら貰える「老齢給付金」!
これがiDeCoのメインとなる給付ですね。多くの方はこの老齢給付金を目当てにiDeCoに加入していることでしょう。
老齢給付金が受け取れるのは60歳からです。それまでは原則引き出す事が出来ないので、いわば途中解約の出来ない60歳満期の積立金といった感じです。その代わりに掛金支払い時や給付受取時に税金の優遇を受けられるので致し方ないですね・・・。
※:50歳以上で加入する場合、加入期間の長さによって「60歳?65歳まで」受給開始可能年齢が異なります。(関連記事:確定拠出年金が引き出し可能になる年齢は何歳から?)
老齢給付金の受取り方法として以下の3つが有ります。
- 老齢年金
- 老齢一時金
- 老齢年金と老齢一時金の併用
「老齢年金」は、老齢給付金を5年以上20年以下の有期年金として受け取る方法です。中には、住友生命や明治安田生命の様に終身年金として受け取る事の出来る運営管理機関も有る様ですよ。
年金として老齢給付金を受け取る場合、雑所得として公的年金等控除を適用する事になります。
次に「老齢一時金」ですが、これはいままで積立てて来た個人別管理資産を一括で受け取る方法です。一括受取りなので、2回目以降は有りません。会社から貰う退職金の様なものですね。
老齢一時金は退職金と同じ様な性質なので、税制上も退職所得となります。従って、加入期間に応じて退職所得控除の額を算出し、税額が決まります(通常は源泉徴収されるので、自分で確定申告をする必要は有りません)。
最後に「老齢年金と老齢一時金の併用」ですが、これは年金と一時金を組み合わせて受け取る方法です。60歳以降老齢給付金を請求した時点で一部を一時金として受取り、残りを5年以上20年以内の有期年金として受取る事が出来ます。
税制上は老齢年金と老齢一時金の組み合わせとなるので、年金として受け取った部分は雑所得、一時金として受け取った部分は退職所得として課税される事になりますね。
注:年金と一時金を併用して受け取る方法は、金融機関によっては選択出来ない事も有るので、予め確認する様にして下さい。
なお、上述した様に老齢給付金は受取り方法によって課税の仕方が異なります。受け取るタイミングや方法によっては多額の税金が発生する事も有るので注意が必要です。
この点については、「確定拠出年金は受け取り方次第で大損する!?税金の額を年金・一時金別に解説」で紹介しているので参考にして下さい。
一定の高度障害を負った際に貰える「障害給付金!」
iDeCoに加入している期間中に、事故や病気によって一定の障害を負う事になった場合に受け取れるのが、この障害給付金です。
対象者は高度障害を負った方、具体的には「障害基礎年金の年金証書等、身体障害者手帳(1・2・3級)、療育手帳(重度)、精神障害者保健福祉手帳(1・2級)の所持者」です。
参考:例えば、身体障害者手帳3級が貰えるのは「体幹の機能障害によって歩行が困難」「内臓の機能障害により日常生活が著しく制限される」といった場合です(参照元:厚生労働省「身体障害程度等級表」)。
加入者が70歳になる前に傷病によって障害を負い、その障害に関する初診日から1年6ヶ月が経過した場合に障害給付金を受け取る事が出来る様になります。
重度の障害を負うと今まで通り働いて収入を得る事が難しくなりますからね、給付金も60歳まで待たなくても受け取る事が出来る、と言う訳ですね。
なお、障害給付金の受取り方法は老齢年金と同様に3つの方法から選ぶ事になりますが、障害者に対する給付なので、老齢給付金とは異なり税金は非課税となっています。
参考:個人型確定拠出年金(iDeCo)の障害給付金とは?金額や税金も。
加入者が死亡した際に貰える「死亡一時金!」
これは加入者が受け取る給付ではないのですが、iDeCoの加入者が死亡した場合、加入者の遺族は今までに加入者が積立てた個人別管理資産相当額を「死亡一時金」として受け取る事が出来ます。
死亡一時金は、以下の順番で受け取る事が出来ます(同順位の方が2人以上いる場合は、人数で按分して支給。但し、実務上は代表者に一括支給されます)。
- 第1順位:配偶者(内縁の妻も含む)
- 第2順位:同一生計の親族(子⇒父母⇒祖父母⇒兄弟姉妹)
- 第3順位:同一生計の上記以外の親族
- 第4順位:生計が別の親族(子⇒父母⇒孫⇒祖父母⇒兄弟姉妹の順)
参考:生前に、加入者が運営管理機関に対して死亡一時金の受取人を指定しておく事も出来ます。
なお、死亡一時金については相続税法上のみなし相続財産として相続税の課税対象となります。
参考:死亡一時金の裁定請求が認められるのは死亡後5年以内です。この期間を過ぎると死亡一時金として受け取る事が出来ないので、一般の相続財産として課税されることになります。
みなし相続財産については「法定相続人の数×500万円」まで非課税となるので、他に死亡退職金がなければ死亡一時金に対して税金がかかる事はあまり無いでしょうね。
60歳まで生きていた場合は自分の老後資金、それまでに不運にも亡くなってしまった場合は遺族への財産として活用出来るという訳ですね。
参考:iDeCoの加入中に本人が死亡したどうなる?死亡一時金と税金の関係も!
加入者が確定拠出年金を脱退した際に貰える「脱退一時金!」
確定拠出年金は、原則として一度加入すると脱退(要は解約)する事が出来ません。あくまでも老後の資金の為に積立をしている訳ですからね。
但し、絶対に脱退出来ないという訳でなく、以下の条件を全て満たした方は、例外的に脱退一時金を貰う事が出来ます(2017年1月以降に加入者資格を喪失した場合)。
- ①国民年金保険料の納付を免除されている(※1)。
- ②確定拠出年金の障害給付金の受給権者ではない。
- ③通算拠出期間が3年以下(※2)、又は個人別管理資産が25万円以下。
- ④企業型又は個人型確定拠出年金の資格を最後に喪失した日から2年以内である。
- ⑤企業型確定拠出年金の加入者資格喪失時に脱退一時金を受給していない。
(参照元:確定拠出年金法附則3条、確定拠出年金法施行令60条)
※1:障害基礎年金裁定通知を受けた者および国民年金法第89条第1項第3号の施設に入所している者は除く。
※2:掛金を拠出していない期間(運用指図者期間)は含まない。
条件を見ると結構厳しいですね。脱退一時金を受け取る事が出来るのは年金を免除されている個人事業主やフリーランス、無職等の方に限られるでしょうね・・・。
なお、脱退一時金の脱退条件については「確定拠出年金は解約できない!?脱退一時金を受け取る為の要件とは?」でより詳しく解説をしているので参考にしてみて下さい。
ちなみに、脱退一時金は一時所得として所得税及び住民税の課税対象となります。
一時所得の計算方法は以下の通り。
一時所得の額=総収入金額-収入を得るために支出した金額(注)-特別控除額(最高50万円)
脱退一時金を受け取る事が出来るのは、個人別管理資産が25万円以下の場合です。従って、その年に他に一時所得が無ければ特別控除額の範囲内に収まるので、税金を払う必要は有りません。
iDeCoの給付で受け取れる給付額は?給付事務手数料が引かれる!?
iDeCoで受け取る事の出来る4種類の給付について解説しましたが、これらの給付金は実際にはいくらくらい受け取る事が出来るのでしょうか?
この点、給付金の額は個人別管理資産の額(※)となります。但し、個人別管理資産の額がそのまま受け取れる訳では無く、そこから給付1回毎に給付事務手数料として多くの場合432円が差し引かれる事になります。
※:脱退一時金に関する裁定決定が完了した後、運用商品が現金かされる事で確定します。
給付事務手数料は1回毎に発生する手数料なので、一時金で給付金を受け取れば432円で済みますし、10回払いの年金受取りをすると4,320円(432円×10回)が手数料として発生します。
1回当たりの金額はそれほど高くないですが、年金として複数回給付金を受け取る場合は結構な手数料となります。受取り方法を決める際には、給付事務手数料についても考慮した方が良さそうですね。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の給付
ここまでiDeCo(個人型確定拠出年金)の給付について紹介して来ましたが、以下では企業型確定拠出年金(企業型DC)の給付について簡単に見てみましょう。
企業型確定拠出年金で受け取る事の出来る給付は、iDeCoと同様以下の4種類となります。
- 老齢給付金
- 障害給付金
- 死亡一時金
- 脱退一時金
それぞれの受給要件なども基本的にiDeCoと同じです。
なお、脱退一時金については以下の要件を満たす必要が有ります(確定拠出年金法附則第2条の2・確定拠出年金施行令第59条第2項)。
- 企業型DCの個人別管理資産額が15,000円以下
- 企業型DCの加入者・企業型DCの運用指図者・iDeCoの加入者・iDeCoの運用指図者ではない
- 最後に加入していた企業型DCの資格喪失日が属する月の翌月から6ヶ月以内
個人別管理資産額が15,000円以下というのはかなり厳しいですね・・・iDeCo同様脱退一時金を貰うのは現実的に無理だと思っておいた方が良いでしょう。
ちなみに、企業型DCの場合は規約に定める事で、勤続3年未満(※)で退職した方から事業主掛金相当額を会社に返還する(これを「事業主返還」と言います)様にする事が出来ます(確定拠出年金法第3条3項10号)。
※:企業型DCの加入期間の事ではなく、その会社の勤続年数です。また、3年以内であれば会社が任意に期間を設定する事が出来ます。
つまり、会社としては老後の資金の為に積立てているのだから、「すぐに退職する場合は、会社が負担した掛金を退職時に全額返して下さい」という訳ですね。
会社によって異なりますが、あまり早く退職し過ぎると退職時にお金を請求される可能性が有る、という事は知っておいた方が良いでしょう。
まとめ?iDeCoの給付の特徴や税金を一覧表で?
iDeCo(個人型確定拠出年金)で受け取る事の出来る4つの給付について見て来ました。最後にそれぞれの内容を一覧表にまとめてみましょう。
給付の種類 | 支給事由 | 受取人 | 税制上の扱い |
---|---|---|---|
老齢給付金 | 原則、加入者が60歳になった場合 | 加入者 | 年金:雑所得として公的年金等控除を適用 一時金:退職所得 |
障害級付金 | 加入者が高度障害の場合 | 加入者 | 年金・一時金共に非課税 |
死亡一時金 | 加入者が死亡の場合 | 加入者の遺族 | 相続税法上のみなし相続財産 |
脱退一時金 | 加入者が制度に加入し得ない者となった場合 | 加入者 | 一時所得として課税 |
健康なまま60歳を迎えた場合はもちろん、途中で高度障害を負ったり死亡した場合もiDeCoでは給付を受け取る事が出来ます。しかもそれぞれの給付金は、税制上の扱いは異なるもののいずれも優遇されたものとなっています。
iDeCoを老後の資金の為と考えている方も多いでしょうが、実は色々なケースで受け取る事が出来る上に各給付での税制上の優遇も大きいのです。
原則60歳まで引き出す事が出来ないというデメリットはありますが、それを考慮しても有り余る給付内容ですね。