「iDeCo加入中に加入者本人が死亡したらiDeCo口座の資産はどうなってしまうの?」
ふとこんな疑問をもった事のあるiDeCo加入者の方も多いのではないでしょうか?
結論から書きますと、iDeCo加入者もしくは運用指図者が死亡した場合、遺族の方にiDeCo口座内の資産すべてが死亡一時金として支給されます(但し、遺族が請求する必要あり)。
iDeCoは、自分の老後の為にお金を積み立てておく制度ですし受給権はしっかりと保護されています。ですから、本人が死亡した場合に”家族”に請求権が発生するのは当然の事と言えます。
以下では、死亡一時金の金額がいくらになるのか具体的に確認するとともに、死亡一時金回りの税金(主として相続税)について計算方法も交えながらわかりやすく解説していきたいと思います。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の死亡一時金の金額はいくらになる?
死亡一時金の金額は、原則として「iDeCoの加入者または加入者であった者のiDeCo口座内の資産すべて(以下、個人別管理資産額)」となります。
なお、本人が死亡してもiDeCo口座内での運用は引き続き行われます(例:本人が従前に投資信託に100%割り振っていたなら投資信託100%のままで運用が行われる)。
では、いつ運用が止まるのか?というと「運営管理機関が裁定を行った後」です。(支払いまでの流れについては後述)。
運営管理機関が、遺族からの請求に基づいて「この遺族に支給する!」という裁定を行ってから、死亡者のiDeCo口座内の運用商品の売却処理が行われて現金化され、その現金化された金額が支給されます(参考:個人型年金規約第129条)。
つまり、死亡日時点のiDeCo口座資産の時価ではなく“運営管理機関が売却手続きを行った時の運用資産の時価”が遺族に支給される現金の額という事です。
死亡一時金を受け取る際の手数料
死亡一時金を受け取る際には、遺族への給付事務手数料として432円がiDeCo資産から控除されます。
また、死亡の届け出が遅れたことにより加入者本人死亡後も掛金の引き落としが行われていた場合には、死亡後に徴収された掛金について還付が行われる可能性があります(死亡するとiDeCoの加入者資格を喪失するので)。
この時、還付事務手数料として最低でも1,461円がiDeCo資産から控除される可能性があります。また、加入者資格が無いのに徴収された掛金も同時に還付されます。(参考:還付事務手数料の内訳)
以上をまとめると、遺族に支払われる死亡一時金の額の計算式は以下のようになります。
運営管理機関が売却指示を出した時の運用商品の時価-給付事務手数料(432円)-還付事務手数料(最低1,461円)=死亡一時金
注:還付事務手数料は発生しない場合もあります。
【参考】死亡一時金は加入者本人の年齢が60歳未満だろうが60歳以上だろうが貰える
確定拠出年金の老齢給付金は原則加入者が60歳にならないと引き出す事ができません。(参考:確定拠出年金が引き出し可能になるのは何歳から?【老齢給付金】)
しかし”死亡一時金”に関しては加入者本人の年齢は関係なく、加入者が60歳未満で死んだ場合でも60歳以上で死んだ場合でも、死亡した時にiDeCoの個人別管理資産額が残っている限り、死亡一時金が遺族に支給されます。
受取人である遺族の年齢も関係ありません。
死亡一時金が支給されないのは、死亡した人のiDeCoの個人別管理資産額がゼロの場合です。
既に老齢給付金の受給が終わってしまっている場合ですね。
あと、故人が老齢給付金を保証期間付終身年金(*)で受け取っており、且つ、保証期間が過ぎてから亡くなった場合は、死亡一時金の対象にならないので注意が必要です。
死亡一時金の受取人となる遺族とは誰か?誰が優先されるのか?
順位 | 遺族 |
---|---|
第1順位 | 配偶者(内縁含) |
第2順位 | 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で、故人が死亡した当時、主として故人の収入によって生計を維持していたもの |
第3順位 | 第2順位に掲げる親族以外の親族で、故人が死亡した当時、主として故人の収入によって生計を維持していたもの |
第4順位 | 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で、第2順位に該当しないもの |
注2:同順位者が2人以上いる場合(例:子3人など)は、死亡一時金はその人数で等分に分けて支給されます。(請求自体は実務上代表者1人が行います)
配偶者(内縁含)は生計の維持関係問わず第1順位なので必ず貰えますが、子や父母が生計を同じくしていない場合には、生計を同じくしていたその他の親族(おじやおばなど)よりも後順位になってしまうことに注意が必要ですね。
生前に受取人指定もできる!
iDeCoの加入者・運用指図者は生前に、配偶者(内縁含)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹のうちから死亡一時金の受取人を指定することが可能です。
死亡一時金の請求の流れ
死亡一時金の請求の流れは以下のようになっています。(参考:給付金をお受け取りになる方 | JIS&T)
なお、ここで“裁定”とは死亡一時金の支給・不支給を判断してもらう事を言います。
①運営関連機関へ裁定請求書類を提出して死亡一時金を請求する
↓
②運営管理機関で裁定が行われる
↓
③裁定結果が死亡一時金を請求した人に書面で通知される
↓
④裁定結果が”支給”だった場合には、故人のiDeCo口座の運用商品の売却処理が行われ、規約等で決められたスケジュールに従い振込が行われる。
死亡一時金を請求してから振込が完了するまでは1ヶ月~2ヶ月程度を見ておいた方が良いでしょう。また、資産売却のタイミングを家族が選ぶことはできず、あくまで規約等のスケジュールに基いた売却処理が行われます。
必要書類に関しては“誰が受取人として請求するのか?”によっても変わってきますので、故人が加入していた運営管理機関に問い合わせするのが確実です。
故人が利用していた運営管理機関が分からない場合には、年1回記録関連運営管理機関(*)から資産状況の通知のための郵便物等が送られてきているので、そちらを探して記載されている電話番号へ電話してみて下さい。
あわせて、国民年金基金連合会の手続きページも参照して下さい。
死亡一時金と税金の関係(いくらまで非課税になるのか?)
確定拠出年金の死亡一時金に対してかかる税金は、故人の死亡から死亡一時金の支給が決定されるまでの期間の長さによって以下のように変わります。
期間 | 税金 |
---|---|
死亡から3年以内 | みなし相続財産(退職手当等に含まれる給付)として相続税が課税される⇒500万円×法定相続人の数までは非課税。 |
死亡から3年超~5年以内 | 受取人の一時所得として課税される |
死亡から5年超 | 死亡した者の本来の相続財産として相続税が課税される |
以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。
死亡日から3年以内に支給が決定した場合⇒みなし相続財産として課税。
みなし相続財産とは、故人が死亡した当時には財産としては無かったが、故人が死亡したことを原因として相続人に受給権が発生し、相続人が受け取った財産の事を言います(参考:相続税法第3条)。
代表的な例として”生命保険の死亡保険金(相続税法第3条1項1号)”や”死亡退職金(相続税法第3条1項2号)”などが該当します。故人の死後3年以内に支給が確定した確定拠出年金の死亡一時金も”相続財産とみなされる退職手当等“に該当するため”みなし相続財産”として相続税が課税されます。
但し、みなし相続財産には非課税枠が定められており、死亡一時金の金額が以下の金額を超えない限り税金は発生しません。
【計算例1】
・死亡一時金の金額:1,000万円
・法定相続人の数:3人
1,000万円-1,500万円(500万円×3人)=マイナス500万円
となり、死亡一時金の額が非課税枠以内に収まっているため、税金は発生しません。
【計算例2】
・死亡一時金の金額:1,000万円
・法定相続人の数:1人
1,000万円-500万円(500万円×1人)=500万円
となり、非課税枠を超えてしまいました。この場合、超過した500万円分は本来の相続財産と合算して相続税の計算が行われます。(この時、合算した相続財産の課税価格合計が基礎控除額以下(3,000万円+600万円×法定相続人の数)であれば、税金は発生しません。)
本来の相続財産とは、土地や建物・有価証券などの故人が死亡した当時に故人の財産だったものを言います。死亡したことを原因として受給権が発生し、受取人が取得した財産である”みなし相続財産”とは別物です。
一般的に、相続税の非課税枠(基礎控除枠)と言えば「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですが、上で見たように”みなし相続財産”の場合には、本来の非課税枠とは別枠で非課税枠が設けられています。
また、みなし相続財産の代表例としてあげた”生命保険の死亡保険金“も”死亡退職金”も、別枠で規定されているものなので、それぞれ非課税枠が適用されます。
法定相続人が相続放棄した場合でも確定拠出年金の死亡一時金は請求する必要あり
確定拠出年金の死亡一時金は、いわゆる民法上の”相続財産”とはみなされません。(ここでは民法上の相続財産をさきほど説明した”本来の相続財産”と考えて下さい。)
だからこそ“みなし相続財産”という名称が使われています。
そして、みなし相続財産は”相続したことで受け取った財産ではなく、もともと受取人固有の財産である”という考えの元で処理されていきますので、仮に法定相続人が相続放棄をしたとしても影響を受けません。
つまり、死亡一時金の受取人が他の資産の相続放棄をしていたとしても、相続放棄をした方が死亡一時金の受取人に該当する場合には、相続放棄をした方が”請求”しなければならないという事です(*)。
この辺りの考え方はややこしいので、興味のある方は、最高裁の判例「最三小判昭和40・2・2 民集 第19巻1号1頁」や弁護士の柳沢 賢二氏の文書等を参考にしてみて下さい。
但し、後述しているように死亡日から5年を超えると”みなし相続財産”ではなく”本来の相続財産”として扱われるので、相続放棄をしている人は請求権が無くなると考えられます。
死亡日から3年を超えて5年以内に支給が決定⇒一時所得
死亡日から3年を超えて5年以内に支払いが確定した死亡一時金は”一時所得”として課税されます(所得税基本通達9-17、所得税基本通達34-2より)。
総収入金額-収入を得るために支出した金額(注)-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
(注)?その収入を生じた行為をするため、又は、その収入を生じた原因の発生に伴い、直接要した金額に限ります。
さらに、一時所得の金額は、税金計算の過程で1/2に相当する金額を給与所得などの他の所得と合算して総合課税されます。
一時所得の場合、控除枠は50万円しかありませんから、3年以内に支給を受ける場合と比べると非課税枠が小さいです。出来る限り3年以内に請求を行って死亡一時金の支給を受けたほうが良いでしょう。
なお、一時所得の金額は下記のカシオの計算サイトなどを利用すると簡単に計算できますよ。
死亡日から5年を超えた場合の取り扱い⇒本来の相続財産として課税
死亡日から5年を超えると死亡一時金の請求権がなくなります。
5年を超えると、死亡一時金を受けることができる遺族が無いものとみなされて、死亡した人のiDeCo資産は”みなし相続財産”ではなく、死亡した人の相続財産として扱われます。(参考:個人型年金規約第130条7項・8項、確定拠出年金法41条4項・5項)
従って、上述した受取人の順位や非課税枠の適用がなくなり、民法上の法定相続人が財産を取得することになるので、本来の相続財産として課税される事になります(*)。
なお、5年を超えるとiDeCoの資産は現金化され法務局に供託されます。供託されると資産の取得手続きが別途必要になってしまうので、出来る限る早めに手続きをとっておきましょう。
【参考1】企業型DCの場合はどうなる?
企業型DCも基本的にiDeCoの場合と同じ取り扱いです。
但し、企業型DCの規約において異なる取り扱いが行われている可能性もありますので、故人の勤務先の人事・総務部や企業型DCの運営管理機関に問い合わせてみることをおすすめします。
【参考2】公的年金の遺族年金や死亡一時金との違いは?
国民年金や厚生年金などの公的年金でも、加入者や受給者が死亡した場合には、一定の条件のもとで遺族年金や死亡一時金が支払われます。
確定拠出年金の死亡一時金との違いはなんでしょうか?
両者の大きな違いは「給付の目的」にあります。
公的年金の遺族年金や死亡一時金は、どちらかと言えば残された遺族の生活保障として“保険”的な意味合いをもちます。一方で、確定拠出年金の死亡一時金は、死亡した人がこれまで自分で積み立ててきたモノの単純な移転です。(あくまでも考え方としてですが。)
その為、公的年金の遺族年金や死亡一時金は「加入期間、遺族の年齢や子の有無、子の年齢、所得の多寡」など様々な条件が設定されており、それらを満たした場合に支給されます。場合によっては掛金の払い損になってしまう事もあります。
参考:遺族年金の受給【記事未了】
参考:国民年金の独自給付「死亡一時金」の金額や内容【記事未了】
しかし、確定拠出年金の死亡一時金は元々死亡した人の財産だったものなので、公的年金のような複雑な受給要件はなく、故人の資産額が全額そのまま受取人に支給されます。また、確定拠出年金の死亡一時金を貰ったからといって何かしらの併給調整が行われる事もありません。
まとめ
今回の記事のポイントは以下の通りです。
- 死亡一時金の金額は故人のiDeCoの個人別管理資産額の全額
- 受け取りには故人の年齢や遺族の年齢は関係ない
- 死亡一時金は原則として”みなし相続財産”とみなされる(この場合は「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある)
- 死亡日から5年を超えると資産が供託されてしまうので要注意
大事なのはやはり早期に死亡一時金の請求をすることですね。死亡日から3年を超えると、非課税枠が大幅に減少してしまうので非常に損です。
生前から死後の財産の処遇等を決めておくことも重要な事なのかもしれませんね。