給与明細と社会保険料の話

「社会保険料ってこんなに高いの!?」

給与明細を見て、こんな感想を持った事がある人も多いのではないでしょうか?

データで見る少子高齢化の状況とそれに対する政府の年金問題への対策でも見たように、国民の社会保険料負担は年々増しています。

今回の記事では社会保険の中でも「国民年金保険料」「厚生年金保険料」に絞って、過去からの改定推移を見ていきたいと思います。私たちの負担が増え続けている事に驚愕するかもしれません。

国民年金保険料の改定推移【月額の定額保険料の金額】

まずは国民年金保険料の推移から。

国民年金保険料の推移
(出典:国民年金保険料の変遷|日本年金機構

一応、数字の羅列も載せておきます。

改正年月定額の月額保険料
1961年4月~
(昭和36年)
100円/150円(*1)
1967年1月~200円/250円(*1)
1969年1月~250円/300円(*1)
1970年7月~450円
1972年7月~550円
1974年1月~900円
1975年1月~
(昭和50年)
1,100円
1976年4月~1,400円
1977年4月~2,200円
1978年4月~2,730円
1979年4月~3,300円
1980年4月~
(昭和55年)
3,770円
1981年4月~4,500円
1982年4月~5,220円
1983年4月~5,830円
1984年4月~6,220円
1985年4月~
(昭和60年)
6,740円
1986年4月~7,100円
1987年4月~7,400円
1988年4月~7,700円
1989年4月~8,000円
1990年4月~
(平成2年)
8,400円
1991年4月~9,000円
1992年4月~9,700円
1993年4月~10,500円
1994年4月~11,100円
1995年4月~
(平成7年)
11,700円
1996年4月~12,300円
1997年4月~12,800円
1998年4月~13,300円
2005年4月~
(平成17年)
13,580円(=13,580×1)
(*2)
2006年4月~13,860円(=13,860×1)
(*2)
2007年4月~14,100円(≒14,140×0.997)
(*2)
2008年4月~14,410円(≒14,420×0.999)
(*2)
2009年4月~14,660円(≒14,700×0.997)
(*2)
2010年4月~
(平成22年)
15,100円(≒14,980×1.008)
(*2)
2011年4月~15,020円(≒15,260×0.984)
(*2)
2012年4月~14,980円(≒15,540×0.964)
(*2)
2013年4月~15,040円(≒15,820×0.951)
(*2)
2014年4月~15,250円(≒16,100×0.947)
(*2)
2015年4月~15,590円(≒16,380×0.952)
(*2)
2016年4月~16,260円(≒16,660×0.976)
(*2)
2017年4月~
(平成29年)
16,490円(≒16,900×0.976)
(*2)
2018年4月~
(平成30年)
16,340円(≒16,900×0.967)
(*2)
2019年4月~
(平成31年・令和元年)
16,410円(≒17,000×0.965)
(*2)
*1 該当月分は35歳未満か35歳以上で保険料の値段が違います。スラッシュの左側が35歳未満の保険料で右側が35歳以上の保険料です。
*2 後述するように、国民年金保険料は2005年(平成17年)4月から2017年(平成29年)4月まで毎年280円(月額保険料)ずつ引き上げられ、平成29年4月以降は月額16,900円で固定される事になっています。なお、この期間の実際の保険料は「保険料水準×保険料改定率」で計算されます。(参考:国民年金保険料の額は、どのようにして決まるのか?|日本年金機構))

長くなったのでもう1度推移表を掲載。

国民年金保険料の推移

物価が上昇しているから仕方ないとはいえ、以前と比べるとかなり保険料が上がっていますね。

国民年金は未納率が約35%(平成28年度)と非常に高いので、そこが気がかりです(参考:国民年金の未納率(納付率)の推移グラフ)。平成30年度からは強制執行基準も更に強化されますから、納付率の向上に期待しましょう。

なお、下記記事で国民年金保険料の計算方法の詳細や高い保険料を安くする節約手法などを紹介しています。こちらも合わせてご参照下さい。

【最新版】国民年金保険料はいくら?保険料を安くする方法も解説!

厚生年金保険料率の改定推移

厚生年金保険料の負担感を感じるサラリーマン

続いて厚生年金保険料率の推移です。定額制の国民年金保険料と違って、厚生年金保険料は給料に対して一定の比率(料率)をかけて計算するので、給料(正確には標準報酬月額)があがると保険料負担も増えます。

参考:いくら取られてる?誰でも分かる厚生年金保険料の計算方法

まずは数字の羅列で推移を見ていきます。

なお、以下の厚生年金の料率に関しては、厚生年金基金等は関係のない一般的な厚生年金の料率で、船員・坑内員・任意継続者以外の人の料率です。また、料率は被保険者と事業主分の合計です。被保険者本人が負担するのは以下の料率の1/2です。
料率改定時期男性女性
1942年~2003年3月までは給与(標準報酬月額)のみに対する料率です。
1942年6月
(昭和17年)
6.4%
1944年10月11.0%11.0%
1947年9月9.4%6.8%
1948年8月3.0%3.0%
1960年5月
(昭和35年)
3.5%3.0%
1965年5月
(昭和40年)
5.5%3.9%
1969年11月
(昭和44年)
6.2%4.6%
1971年11月
(昭和46年)
6.4%4.8%
1973年11月
(昭和48年)
7.6%5.8%
1976年8月
(昭和51年)
9.1%7.3%
1980年10月
(昭和55年)
10.6%8.9%
1981年6月10.6%9.0%
1982年6月10.6%9.1%
1983年6月10.6%9.2%
1984年6月10.6%9.3%
1985年10月
(昭和60年)
12.4%11.3%
1986年10月12.4%11.45%
1987年10月12.4%11.60%
1988年10月12.4%11.75%
1989年10月12.4%11.90%
1990年1月
(平成2年)
14.3%13.80%
1991年1月14.5%14.15%
1992年1月14.5%14.30%
1993年1月14.5%14.45%
1994年(平成6年)1月以降男女共通の料率を使用
料率改定時期料率
1994年1月
(平成6年)
14.5%
1994年11月16.5%
1996年10月17.35%
2003年4月以降は給与(標準報酬月額)及び賞与(標準賞与額)に対する料率です。
2003年4月
(平成15年)
13.58%
2004年10月
13.934%
2005年9月14.288%
2006年9月14.642%
2007年9月14.996%
2008年9月
(平成20年)
15.350%
2009年9月15.704%
2010年9月16.058%
2011年9月16.412%
2012年9月16.766%
2013年9月
(平成25年)
17.120%
2014年9月17.474%
2015年9月17.828%
2016年9月18.182%
2017年9月
(平成29年)
18.3%(これ以降は料率固定の予定)
以降現時点では変動なしで18.3%のまま。
(データ引用元:厚生年金保険料率と標準報酬月額等級の変遷表|日本年金機構)

まずパッと見て思うのは、1993年(平成5年)以前は、女性の保険料率の方が低かったことですね。少ない負担で男性と同じ年金を貰えていたという事ですが、長い時間をかけて料率を徐々に上げていき1994年からは男女共通の料率となりました。

また、それまで17.35%だった料率が2003年(平成15年)に13.58%に下がっているのも気になりますね。これは"総報酬制の導入"により「賞与・ボーナス」にも保険料がかかるようになったため、月収ベースの標準報酬月額にかかる料率を引き下げても制度全体の収入を維持できるようになったからです。

それまでは、月収を下げる代わりに社会保険料のかからない賞与を多めに支給することで、実質的に社会保険料を節約するという手法が流行していたのですが、総報酬制の導入でそのような手法は通用しなくなりました。

参考:ボーナスから社会保険料が引かれるようになったのはいつから?

以下は男性の場合の料率の推移をグラフに表したものです。

男性の厚生年金保険料率の推移

こちらも凸凹はありますが、基本的には料率は右肩上がりとなっていますね。

なお、平成16年10月からは"上限を固定しての保険料引き上げ"が実施されました。これにより、料率は毎年0.354%ずつ引き上げられ、最終的に平成29年9月以降は18.3%で原則として固定化されています(参考:厚生年金保険料率の引上げが終了します |厚生労働省)。

【いつまで上がるの!?】今後も年金の保険料は上がりつづける可能性大

お金がないと嘆く男性

さて、過去から現在まで年金保険料は上がり続けている事が分かりましたね。

また、先ほども述べたように政府は"上限を固定した上での保険料引き上げ"という文句を使って平成16年に大幅な年金改正を行いました。

この"上限"が以下の金額(料率)です。

  • 国民年金・・・16,900円
  • 厚生年金・・・18.3%

平成29年度以降はこの金額(料率)でしばらくの間固定されるはずだったのですが・・・

今後も保険料の引き上げ改定は続きそうです!

いつまで上がるのか?どこまで上がるのか?については正直分かりませんが、現時点で引き上げの可能性が高いものをいくつか紹介しておきます。

【確定】国民年金の第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除のための財源

これは、平成28年12月14日の臨時国会で成立した年金改革法(「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第114号)の中の一つとして規定されています。

つまり、保険料の引き上げが確定しているものです。

簡単にまとめると以下のような改正です。
  • 国民年金の第1号被保険者(自営業・無職・フリーランスetc)の産前産後期間(出産予定日の前月から4ヶ月間)の保険料を免除する
  • 保険料の免除期間は満額の基礎年金を補償
  • 対象者は20万人程度
  • 平成31年4月施行
  • 必要財源は約100億程度
  • 保険料の引き上げ幅:国民年金保険料を月額100円程度引き上げる(年額ベースでは1,200円程度)

というわけで、平成31年4月からの国民年金の名目保険料の額は16,900円ではなく17,000円程度になります。

母親と一緒に寝る子供

なお、この改正は国民年金第1号被保険者に関するものなので、負担をするのは国民年金の加入者のみ。厚生年金保険加入者の直接的な負担はありません。

免除対象期間は4ヶ月なので、対象者の方は総額で6.8万円(1.7万×4ヶ月)の保険料の節約が可能に。

産前産後休暇中の保険料免除は、厚生年金では平成26年4月から実施されていたものですから、当然の流れと言えば当然の流れです。サラリーマンなら保険料が免除されて、自営業だと保険料が免除されないというのもおかしな話ですからね。

また、厚生年金の場合は育児休業期間中の保険料も免除になりますので、国民年金の側でも今後同様の免除制度ができる可能性もありますね(⇒保険料は更に引き上げ)。

とは言え、こういう目的の明確な保険料の引き上げは納得しやすいですね。少子化対策のためには仕方ない値上げだと思います。

幼児教育無償化の財源を確保する「こども保険」が成立するかも?

こちらはまだ未確定で、単なる"検討段階"の状態です。

内容は、幼児教育無償化のための財源確保のために社会保険の料率をあげよう、というお話。

詳細は下記記事などを御覧ください。

「こども保険」とは? 小泉進次郎氏ら、保育無償化の財源に提案(2017年3月の記事) :ハフポスト
【図解・行政】厚生年金保険料率の推移(2017年8月):時事ドットコム

保険料の引き上げがどの程度なのか?はまだ不明ですが、もし社会保険料から財源を確保するという事になれば、国民年金加入者・厚生年金加入者双方ともに負担は増えそうです。

幼児教育のイメージ画像

特に厚生年金の場合は、事業主が支払いをしますから取りっぱぐれがありません。また、実質的には"増税"であるにも関わらず、社会保険料のアップはそこまで国民が目くじらを立てる事も無いので、取りやすいという側面もありますしね。

小さな子どもがいない人からすると不公平感が凄いですが、どうなるでしょうか。そう考えると、教育国債を発行して広く国民(将来の国民を含めて)に負担を求めた方が良いような気もしますね。

年金財政検証のシナリオが崩れれば保険料引き上げ必須!?

財政検証は、公的年金の定期健康診断と言われ、5年に1回行われます。

簡単に何を"検証"しているのかを書いておくと、過去・現在・未来の人口動向や経済状況などを勘案して今後も年金制度が維持できるのかどうか?という部分を検証しています。

直近で行われたのは平成26年度です。詳しい内容を知りたい方は「平成26年財政検証結果レポート | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省」を見て下さい。

ちなみに、コチラが平成26年度の財政検証で使用された経済の前提です。

平成26年度の財政検証の経済前提データ

そして、上記のA~Hの8つのケースに対応した所得代替率(現役世代の手取り収入に対して年金受給者が受け取れる年金の割合(例:代替率50.0%の場合、現役層の手取りが30万なら貰える年金の額は夫婦二人で15万円程度))の見通しがこちら。

平成26年度財政検証結果【所得代替率】

政府は、平成16年度改正で「所得代替率は50%を何とか維持して年金を続けていきます!」と宣言しましたので、毎回の財政検証でどうやったら所得代替率50%を守れるか!という点に着目して検証しています。

ただ、残念ながらそもそも経済の前提が崩れると所得代替率50%を死守することは出来ません。もう一度前提条件を掲載しますね。

平成26年度の財政検証の経済前提データ

コレを見たら分かるんですけど、ほとんどのケースで日本経済が成長する前提で試算してるんですね。マイナスになっているのはケースGとHのみ(*)。

* この場合でも実質経済成長率がマイナスなだけであって名目経済成長率はプラスの前提。

もちろん、日本政府としてこれから日本の経済は右肩下がりです、とおおっぴらに言うことは出来ませんし、日本政府として「頑張れば経済は成長させる事ができるぞ!」という事を国民に伝えるのも大事だと思います。

ただ、普通に考えて日本経済ってそんなに成長するんですかね?

高齢世代人口の比率
(画像出典:1 高齢化の現状と将来像|平成29年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

上の画像のように今後人口は右肩下がりです。経済のドライバーは基本的には人口ですから、人口が減ると経済成長はそこまで望めないのが普通ですよね。

もちろん、女性や高齢者の労働市場への参加が今以上に進めば労働力自体はある程度維持できると思いますし、労働生産性の高い産業に労働力が移ることで当面は名目GDPでみれば成長するかもしれません。また、最近は人手不足が顕著で最低賃金も上昇傾向ではあります。

それに世界的に見れば2100年くらいまでは総人口は増加し続けますしね。(日本の人口は右肩下がりですが)。

しかしと書かれたキーボード

しかし、それにしてもずっと経済がプラス成長し続けられるという保証はありませんよね。

日本の旧態依然とした企業が世界でシェアを取れるでしょうか?

週刊ダイヤモンドの記事によると、平成元年時点では世界時価総額ランキング上位50社中32社が日本企業だったそうです。しかし、平成30年時点で上位50社にランクインしているのは「トヨタ自動車」の1社のみ。

これだけで判断するのは短絡的かもしれませんが、基本的に日本の企業に世界的な競争力はありません。

そういう意味で考えると、最悪と想定している経済の前提条件(ケースFやG、Hあたり)がそもそもそんなに最悪じゃないと思うんですよ(完全に筆者の主観)。政府はこれまでも前提条件として使う基礎率データに甘めの数値を使ってますけど、今回も少し甘いかなという印象があります。

従って、今回発表された財政検証の見通しもかなり高い確率で外れる可能性があります。見通しが外れたらどうなるか?

国民に何らかの負担をしてもらわないとダメですよね。

それが「保険料の引き上げ」なのか「給付カット」なのか「支給年齢の引き上げ」なのか、どれかは分かりませんが、何らかの対応はしなければなりません。こういう面から考えても保険料の引き上げはまだまだ続くのではないかと考えられます。

【おまけ】健康保険料・介護保険料などその他の社会保険料率の推移

おまけとして、厚生年金以外の社会保険料(健康保険と介護保険)の過去から現在までの推移もみておきます。こちらは総報酬制が導入された平成15(2003)年以降の推移です。

年度厚生年金保険料(1種)健康保険料率(協会けんぽの平均)介護保険料率合計料率
2003年
(平成15年)
13.58%8.20%0.89%22.67%
2004年13.934%8.20%1.11%23.24%
2005年14.288%8.20%1.25%23.74%
2006年14.642%8.20%1.23%24.07%
2007年14.996%8.20%1.23%24.43%
2008年
(平成20年)
15.350%8.20%1.19%24.74%
2009年15.704%8.20%1.19%25.09%
2010年16.058%9.34%1.50%26.90%
2011年16.412%9.50%1.51%27.42%
2012年16.766%10.00%1.55%28.32%
2013年
(平成25年)
17.120%10.00%1.55%28.67%
2014年17.474%10.00%1.72%29.19%
2015年17.828%10.00%1.58%29.41%
2016年18.182%10.00%1.58%29.76%
2017年
(平成29年)
18.3%10.00%1.65%29.95%
2018年
(平成30年)
18.3%10.00%1.57%29.87%
2019年
(平成31年)
18.3%10.00%1.73%30.03%
(データ出典元:①保険料率の変遷 全国健康保険協会、②協会けんぽの介護保険料率について | 全国健康保険協会)

厳密に言えば、雇用保険料率・労災保険料率・子ども子育て拠出金も含めなければならないのですが、雇用保険料率は今後増加する可能性は少ないですし、労災保険料・子育て拠出金は事業主負担なので省いています。また上記数字は全て事業主負担分(1/2)も含まれています。

平成31年度でいえば、給与額面の約15%(30.03%の半分)が社会保険料として徴収されている事になります。

上記のデータをグラフ化したものがこちら。

社会保険料率推移グラフ

近年ではやはり年金保険料率の引き上げがインパクトありますね。健康保険料率にしろ介護保険料率にしろまだまだ増えていく予定なので、将来的な負担料率を考えるのが怖いですね。

まとめ

以上見てきたように保険料は過去からずっと引き上げ続けられています。今後もどんどん上がるでしょう。

健康保険や介護保険料も含めて考えれば、事業主負担分も含めた負担率は将来的には40%、50%を超えてくるかもしれません。(給与所得者本人の負担率で言えば20%、25%を超えてくるかも。)

社会保険料は実質的には税金ですから払わないという選択肢はありませんが、あまりにも現役世代に負担をかけすぎでは?と思ってしまいます。

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